140字小説一覧|

2015年1月|2月#
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「幸せになることに臆病になるな」眼前の男が言う。莫迦な事だと笑えない理由は、私自身が一番よく解っている。友人を失くしたから。〈彼女〉のぶんまで幸せになるなんてとんだ思い上がり、苦い笑みしか出てこない。左手薬指に彼と揃いの指環が光る。苗字を変えた私を一生、縛るモノ。幸せって、なに?
【幸せになることに臆病になるな】(2015.01.31)


あの日のような毎日を夢見るだけの毎日だ。本当に夢だったのかもしれない。狂騒めいた熱の中を泳ぎ、充実して幸せだった。携帯に着信、相手も確かめず応じる。『新しいプロジェクトを立ち上げるつもりだ。協力してもらいたい』懐かしい声、全開走行の〈音〉。白煙すら漂う。「喜んで」私の声は弾んだ。
【あの日のような毎日を夢見るだけの毎日だ】高橋涼介 (2015.01.31)



空中でばらばらになった僕の想い、やっぱり君には届かなかった。笑顔が引き攣らないよう繕うのは結構大変。クルマが恋人って、茶化すように言ってたけど。いっそコイツと心中しようか。〈愛車〉はただ僕を待っている。僕が居ないとダメなんだもんな。まだしばらくはロンリードライバーで居ようと思う。
【空中でばらばらになった僕の想い】(2015.01.31)


わらえ、と君がわらって命じた。眉間に銃口でも突き付けられているみたいだ。『どうして泣くの』問いには答えないまま、ぽたぽた落ちてくる君の涙。濡れた睫毛を見上げていると結ばれた唇がゆっくり解けていく。「すき、なんだ」聞き間違いではなさそうだ。『知ってる。ありがとう』僕の指先に君の雫。
【わらえ、と君がわらって命じた】(2015.01.31)


言葉は伝わらずに溶けて消える。あんな事言うつもりじゃなかった。私ってなんでこうダメなんだろ。会話苦手でコミュ障で…もう頭ん中ぐちゃぐちゃ。部活やめた方がいいのかな。誰かの靴が視界に入り顔を上げた。「なんで、って?泣いてんじゃねーかと思ってよ。図星だろバカ」差し伸べられた手を掴む。
【言葉は伝わらずに溶けて消える】(2015.01.30)


「新しい世界が待ってる。行こう」彼がこちらへ手を伸ばす。私は一瞬躊躇し、足を止めて俯いた。「怖い?」問いを受け素直に頷く。「それでいい。自走で帰ったら祝杯だな、朝まで付き合うぜ」笑顔に背中を押されるように深呼吸を一度。メットを被って彼と向き合い、グローブ越しに強く握手を交わした。
【新しい世界が待ってる】(2015.01.30)


「先天性の憂鬱だから仕方がないよ」全て諦めたようなぎこちない顔で微笑ってみせる。巧く生きてるつもりのコイツを無理矢理連れ出して『乗れ』と助手席を指す。怪訝な顔に舌を打ちシートへ押し込んだ。ユウウツだとか言うヒマ、無くしてやる。エンジンもタイヤも好調。今夜は寝かせないから覚悟しろ。
【先天性の憂鬱だから仕方がないよ】(2015.01.28)



これが私の決意だ。今思えばきっと一目惚れ。通り掛かる度に視線が向かった。いつか、あの子と一緒に走りたい。免許を取ったのはこのためと言ってもいい。すみません、ガレージ奥へ声を掛けるとツナギ姿の男性が現れた。『試乗、させてもらえませんか』「どうぞ」笑んだ彼に促され私は足を踏み入れる。
【これが私の決意だ】(2015.01.28)


ストレートに刺さる夜、想像から遥か斜め上の事態が起きた。「おまえが好きだ」『そーいう冗談嫌い』愛車のドアを開けたところで私の手は強く掴まれ、意味を問おうと顔を上げる。「話終わってねーんだけど」『私に勝ったら続き聞く』「俺が負けたら?」『私の話、聞いて』私の声と足は少しだけ震えた。
【ストレートに刺さる夜】(2015.01.28)


思い出ばかりが幸せで埋め尽くされていて、笑える。ボンネットに背中を預け星空を見上げた。ひとりになるのは久しぶりだ。つまり"付き合ってた"時期が結構長かったって事か。喧嘩も擦違いも数えきれない程。それなのに俺の中でアイツは笑ってるんだ。今日くらい、感傷に浸るってのも悪くないかもな。
【思い出ばかりが幸せで埋め尽くされていて、笑える】(2015.01.27)


明日はきっと笑ってる。そう言ったものの、きみの涙は止まりそうにない。頭を撫で、背中をさする。ぼくの手に負えないかもしれない。途方に暮れて溜息を零し、口を開いた。ぐしゃぐしゃの顔も、なかなかチャーミングだよ。…ああ、やっと笑ってくれたね。どうか明日も明後日も、きみのそばに居させて。
【明日はきっと笑ってる】(2015.01.27)


水面下では愛を叫んでる、つもりの口下手な私。本気で走る"女"ってこの辺りでは多くない。最初は冷やかし程度にあしらわれていたけど、いつの間にか地元ではそこそこ速いヤツに。あなたのこと追いかけたい、私が抜いたら追いかけてきてほしい。だから、後ろからパッシングかまして「一緒に走ろう」!
【水面下では愛を叫んでる】(2015.01.24)



ファッションビルは僕を無個性化する。目立つのが苦手な自分にとっては好都合、〈その他大勢〉で十分だ。雑踏に埋もれる僕を引き上げたのはシルエイティに乗った二人。『なぜわかった』「わかるに決まってんでしょ、バカにしないでよ。ねえ真子」「うん。気づいてたよ」まったく、彼女達には敵わない。
【ファッションビルは僕を無個性化する】沙雪&真子 (2015.01.21)


歪んだ夜に目がまわる。やっぱり"赤城"なんか来るんじゃなかった。行儀悪く舌を打つと、湿度と熱気と化粧のニオイが肌にまとわりつく。駄目だ、苦しくてたまらない。手の甲を唇に押し当て、知らない顔ばかりが並ぶ中を駆け抜ける。黄色い車の傍らに立つ彼を見つけ名を呼んだ。声は掠れ、涙さえ滲む。
【歪んだ夜に目がまわる】(2015.01.21)


君を開ける鍵なんか最初からなかった、気付くまで時間がかかった。冷たい視線で刺されるのも悪くないけれど、その温度もう少し上げてもらえないだろうか。心の内に在る扉、辛うじて爪先だけは捻じ込めているかな。どうやら自分を過信していたみたいだ。想像以上に手強い〈君〉、僕はまた挑んでもいい?
【君を開ける鍵なんか最初からなかった】(2015.01.21)


青くて蒼くて碧くて淡い毎日だ。淡々と、ただ淡々と日々は過ぎゆく。起きて仕事して寝て、また一日が始まる。何の為に生きているかなんて、考えるだけ無駄だと解ってる。期待なんかとっくに捨てた、死んでいないだけの私という人間。お遣いに出た街角で真っ赤な〈車〉を見た瞬間、私の世界は色付いた。
【青くて蒼くて碧くて淡い毎日だ】(2015.01.21)


かたかたかた、と心が揺れる。『降りて』運転席からの懇願に頭を抱えた。「オレに死ねと」『速い怖いもうやだ』「…次のPA寄るぞ」広い駐車場の隅で向き合う。「遅い方が危ないだろ。練習付き合ってやってるオレの身にもなれ」『隣にあんたが居て集中できるわけないでしょ!』彼女の顔は耳まで赤い。
【かたかたかた、と心が揺れる】(2015.01.21)



似合いもしないトレンチコートを着て出掛けた。街中、背後から名を呼ばれる。『延彦。仕事は』「夜から」彼は私の全身へ視線を走らせた。『チビがトレンチ着るなって?』「似合ってるよ。この後予定は?」『特にない』「じゃあうちにおいで。それ脱がせたい」屈託のない笑顔につられ、こくりと頷いた。
【似合いもしないトレンチコートを着て出掛けた】秋山延彦 (2015.01.20)


深いブルーに沈む私の心を救い上げたMR2。希望や目標を持つことができたのも、きっと〈彼〉のおかげ。愛車を降りた彼は私の視線に気付いたのか、こちらへ近寄り「どうした」と問う。『このまま溺れそう』冗談めかしたつもりが、吐息は確かに白く震えた。「もう遅い」笑んだカイの唇が頬に触れる。
【深いブルーに沈む】小柏カイ (2015.01.20)


飛べないことを知ったのはあの日だった。ホームコースで余所者に叩きのめされた夜、私が所属するチームは解散した。セッティングもコンディションも完璧だった筈の私が下りで勝っていたら。愛車にもたれて息を吐く。鼻の奥がツンと痛い。勘違いしてたのかな。〈翼〉なんか私には最初から無かったんだ。
【飛べないことを知ったのはあの日だった】(2015.01.20)


この夜をどうしようか、なんて予想外の質問に対する答えは生憎持ち合わせていないため、数秒程度間抜け面を晒してしまった。彼女はくつくつ笑いこちらへ右手を差し伸べる。「暇なら朝までつきあって」眼前の小さな手を取ることが一体〈何〉を意味するか。この時俺は清々しい程に何も解っていなかった。
【この夜をどうしようか】(2015.01.19)


記憶がざらつくように心が揺れた。立ちすくみ、キーケースを強く握り締める。こちらへ歩を進める〈彼〉の姿には見覚えがあるような気がした。いつどこで会ったっけ。知りたいけれど、知りたくない。焦燥が胸を叩く。私、あなたとどこかで会った?恐る恐る投げ掛けた問いへは曖昧な微笑だけが返された。
【記憶がざらつく】(2015.01.19)



要領を得たところで恋は終わる。「次の人と"続き"から始められたらいいのにね」彼女が嗤った。じゃあ俺と"続き"をしよう。言わずに飲み込んだ。きっと君は恋人と別れるより、友達を失くす方が嫌だと言う。そういうやつだって、俺は知ってるから。恋の傷は恋でしか癒せない、君は頑なに信じてる。
【要領を得たところで恋は終わる】(2015.01.19)


憂鬱だけが加速するのが分かった。薬を寄越す沙雪へ首を振る。「毎月重いよね。あたしのかかりつけ連れてこうか」病院行きたくない。そっぽを向くと、溜息と共に両頬を抓られる。「自分の体、大事にしなきゃダメ」口調と反対の優しい指先。母親みたい。呟きを聞き付けられ、髪をわしわし掻き回された。
【憂鬱だけが加速するのが分かった】沙雪 (2015.01.18)


そんなに生き急いで何になる?質問に私は呆けるしかなかった。峠道で顔を突き合わせている彼は、眉間に深く皺を刻む。「危なっかしくて見てらんねえ」訳も分からずごめん、と項垂れる。声が震えた。「謝るこたぁねーよ。オレもつれてけ」顎を持ち上げられ、視線を合わせた途端。唇同士の事故が起きた。
【そんなに生き急いで何になる】(2015.01.17)


世界の始まりが見たかった。夜と朝が交錯する。だんだん視界が色付いて、ちいさな幸福の予感さえ。そんなことはお構いなしに、隣から欠伸と溜息が続け様に飛んでくる。「ねっむい。早く帰ろ、車じゃ寝た気しない」生返事でドアを開けた。唇を尖らせているきみとなら、ぼくはなんでもできる気がしてる。
【世界の始まりが見たかった】(2015.01.17)


君の合図に気付かないままだった。〈会える〉のはいつも夜。僕と擦違う瞬間、君はリトラクタブルライトを一度瞬かせる。ただの挨拶かもしれない、でもまるで君に見つめられているみたいにドキドキしてた。それが、いつも独りで居る君なりのSOSだったなんて。今となってはもう、何もかもが遅すぎた。
【君の合図に気付かないままだった】(2015.01.17)



僕の心はがらんどうだ。隣に君がいない、たったそれだけのことなのに。狭いはずの車内がやけに広い。寒々しくさえ感じる。いつも助手席で笑ってくれた〈君〉。俯き唇を結ぶ。運転席の窓が二度叩かれた。「ごめん慎吾!待った?」おっせーよバカ、連絡ナシでどーいうつもりだ?心配すンだろ、早く乗れ!
【僕の心はがらんどうだ】庄司慎吾 (2015.01.17)


絡んだ指先を離せないでいた。寝てる、よね?顔を覗き込むとやっぱり熟睡している。子供みたいな寝顔。繋がれたままの手はさっきよりも温かい。ねえ、そんなに私のことすき?寝てるときも離したくないくらい。こんなこと、起きてるときには絶対聞けないから。「すきだよ」不意に忍び笑いが返ってきた。
【絡んだ指先を離せないでいた】(2015.01.16)


コーヒーはとっくに冷めていた。二人の間で煙草が灰に変わっていく様をただ眺めている。理由なく始まった関係でも、終わりには幾つかの理由が生まれているものだ。席を立つと同時に「送ろうか」聴き馴染んだ声が上がるが私は辞退した。店外へ出てからも、これからもずっと。振り向かないと決めたから。
【コーヒーはとっくに冷めていた】(2015.01.16)


雨の音で目が覚めた。起床予定時刻はまだ遠いようだ。隣に在る腕を揺すってみると唸り声のようなものが上がる。雨だよ。天気を伝えると「洗車はまた今度な」と半笑いが返ってきた。どうせ昨日から知ってたくせに。起き上がりベッドから抜け出そうとする私の腕は強く掴まれた。「バーカ。逃がすかよ」
【雨の音で目が覚めた】(2015.01.16)


地下鉄で呼吸の仕方が分からなくなった。右手が吊革から離れると同時に意識も手放すのだと思えた。膝から崩れかけた私を支えた強く温かな腕。「次で降りましょう。急ぎますか」問われ首を振る。ホームのベンチへ座り顔を上げた私の目に映った男性。動悸の原因がトキメキか貧血か、今の私には判らない。
【地下鉄で呼吸の仕方が分からなくなった】(2015.01.16)


2015年1月|2月#


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