140字小説-2015年3月|夢
#深夜の真剣文字書き60分一本勝負:風の中に息吹 須藤京一 (2015.03.28)
#深夜の真剣文字書き60分一本勝負
・お題:風の中に息吹
・【頭文字D】二次創作
・女性主人公 夢小説 ※無名"夢主"のため名前変換なし
・相手:須藤 京一
・夢主設定:恋人
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芸能事務所に所属するタレントの端くれである自分に〈恋人〉が居ること。それが発覚することは、スキャンダルになる。
応援してくれるファンへ夢を売る職業なのだと、社長から聞かされていた。
「私が知らないと思った?」
社長室で俯いた私は、何と返して良いのか判らないまま頭を下げた。
「……すみません」
「叱ってんじゃないのよ。あんたの口から話してほしかっただけ。今日、電車で来たのよね?」
「はい。車は点検中ですので……」
問いに頷く。何の関係があるのだろう。
「そろそろ着く頃じゃないかしら」
社長の視線が外れると同時、ノックの音が二度上がり振り向いた。どうぞ。社長の声に応えるように扉が開き、そこに居た人物は。
「――何で、」
「私が呼んだの」
スーツ姿の京一は私の横で立ち止まり、深く頭を下げる。
「お初にお目にかかります。須藤京一と申します」
社長と〈恋人〉との名刺交換は、呆然と立ち尽くす私を取残したまま滞りなく進んでいく。
「あの、」
「心配しないで。私が会いたくて、彼に来てもらっただけなのよ。あんたには内緒でね」
京一の横顔からは感情を読み取ることができない。
「二人並ぶとイイわねえ、画になるわ。須藤君は身長高くてガタイもいいし、フツーの仕事だけじゃもったいないわよ」
「ありがとうございます」
「例えばの話なんだけど。来週末のイベントで、スタッフをお願いできないかしら。男手があると助かるのよね。勿論バイト代は出すわよ」
「構いません。副業は禁止されていませんので」
「あら、嬉しいわあ。それじゃあ、詳しい事は後で連絡するからよろしくね」
「はい。その――私から一つ、宜しいですか」
「どうぞ」
「私は“結婚”を前提として彼女と真剣に交際しています。本日はこれだけをお伝えしたく参りました」
「京、……」
「んもう、今のはナシよ。後でちゃんとプロポーズしてあげて。私が別れろとでも言うと思った?」
「……ここに来るまでは」
「正直ねえ」
くすくす笑う社長と、唇を結んだ京一を交互に見遣る。彼がこちらへ視線を寄越し、やっと視線を合わせられた。泣きたいくらいの安心感が胸に溢れる。
「さ、帰りなさい。須藤君、送ってもらえるかしら」
「はい。本日はお忙しい中お時間を頂きありがとうございました。失礼します」
「……お疲れ様でした。失礼します」
「ご苦労さま。ああ、須藤君」
振り向いた彼は瞳の鋭い煌きを隠そうともせず、ただじっと続きを待っている。
「その子を疵付ける事は私が許さないわよ。うちの大事な“商品”なんだから、ね」
「――良い意味で捉えて構いませんか」
笑んだ社長へ頭を下げ、京一は踵を返す。
閉められた扉をしばらく眺めていた社長は、窓際へ足を運ぶ。
窓の外へ視線を落とすと、地下駐車場から一台の車が出庫し、間も無く車列へ紛れるように姿を消した。どうやら尾行車両は居ないようだ。ほう、と息を吐く。
「栃木ってまだ雪残ってるのかしらねえ。四駆なら関係ないか」
独りごちブラインドを閉める。夕刻からの強い風はまだ収まらない。
「京一、」
「“寮”まで送る」
助手席からの返答を待たず、脳内で経路を探る。ここからマンションまではさほど遠くないが、渋滞箇所を避けるにはどの道が最短か。
「……事務所には、きちんと挨拶をしたいと前から思っていた。おまえに無断で来た事は謝る」
「さっきの……ほんと?」
「ああ。おまえには嘘を吐かない。信じるか」
「信じる。……あの、社長が言ってた…………、えっと、何でもない……」
「どうした」
「高速乗って。京一の家、行こ」
理由を訊かれる前に「いいの」と強く発する。
「明日、休みだから」
窓を開けると温い風が勢い良く車内へ吹き込む。春の息吹を感じ、私は京一に気付かれないようそっと目元を拭った。
(2015.03.28)
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