ロゼ (1/2)
ふたりで手を繋いだなら、真冬の寒さなど知らないままだ。並び歩く真里が不意に、右手の買物袋を高く掲げた。誰かを見付け手を振るような仕草に、夢子が隣で首を傾げる。
「おーい!リューヤァ!」
彼が声を掛けている相手はどうやら、こちらへ向かってくる一台の“バイク”らしい。ようやく夢子にも理解できた。
「真里くん、目いいねえ」
感心しながら、夢子も歩道から左手を振った。龍也は“愛機”を停車させ「何してんだ」と二人を見回す。
「オレんち行くとこォ」
「これから真里くんちに、」
「いっぺんに喋んな」
同時に上がった二つの声を遮って苦笑する。顔を見合わせ笑う二人を眺めていた龍也が「乗れよ、夢子」と彼女を手招いた。ぱっと顔を輝かせ「いいの?」と夢子が笑う。真里と繋いでいた右手を離し、車道に居る龍也の元へ小走りで駆け寄っていく。
「いっかい乗ってみたかったんだ」
豹柄シート後部へちょこんと腰掛ける夢子へ「送ってやる。つかまっとけよ」と釘を刺した龍也が、歩道で佇む真里へは「オメーは走ってこい」と言い捨てた。
龍也がアクセルを開けると同時にGPZ400Fは咆哮のような排気音を上げ、機体の大きさからは想像出来ない程軽やかに車線へ躍り出る。体感速度に驚いた夢子は慌てて龍也の背中を掴むが、それでは体勢が不安定過ぎることに気付く。やがて自身の上体を寄せ、龍也を抱き締めるようにしがみ付いた。
程無くして龍也の愛機は、目的地である“山の手台”のマンションへ到着した。龍也は背後を振り向き様「大丈夫か、夢子」と声を掛ける。
「うん、へーき。めいっぱい掴んじゃってごめんね」
慌てて両手を離した夢子が照れ笑いを浮かべた。
「どうってことねえよ」
「バイクって、はやいんだねえ。龍也くんが運転上手なのかな。このコ、名前なんていうの?」
「――GPZ400F」
「そっか、ありがとうね。龍也くんと、ええと、GPZくん」
地面へ降りた夢子がぺこりと頭を下げ、それからシートの端を幾度か撫でた。まるで幼子を相手にするような手付き、龍也の唇に笑みが浮かぶ。
「……じゃあな」
「あれ、帰っちゃうの?」
「寒ィんだから中入れよ。鍵持ってんだろ」
「持ってないよ。初めて来たんだから……」
少し驚いたように目を見張った龍也が「てっきり入り浸ってると思ってたぜ」と息を吐いた。
「入り浸るって、人聞き悪いなあ」
「マサトと“そういう”関係なんだろ、夢子」
エンジンを停止させ、スタンドを立ててガードレールへ腰掛ける。
「龍也くん、知ってたの?」
「さっき知った」
「……顔に、出てた?」
「幸せそーなカオしやがってよォ」
驚き、自分の頬に手を当てる夢子を見つめ苦笑する。可愛らしい年上のひとを眺める龍也の耳をつんざく「見っけたァ!」素っ頓狂な声。
「やあっと着いたー。オレだけおいてくとか、ヒドくねェ?」
真里が唇を尖らせて龍也へ抗議する。
「思ったより早かったな」
「ナニ話してたん?」
「夢子はオメーの“何”が良くて付き合ってんだ、ってな」
「うらやましーだろ!オレ夢子ちゃん好きィ♪」
熱い身体が無遠慮に夢子へぶつかってくる。頭を撫でると満面の笑みが間近で咲いた。
「夢子のコト、ちゃんと“よく”してやってんのか」
龍也の問いに、真里はきょとんとした顔で「よく、ってナニをよ」と問いを返す。
「――あの、昼間から道端でそんな話……」
「夢子はワカってるみてーだぞ」
しまった、といった表情で俯く夢子は頬を赤く染めている。夢子から身体を離した真里は左手に鍵を鳴らし「よくワカんねーけど、うちで話そ」と笑んだ。
「夢子ちゃんごめんネ、寒いのに待たして」
「ううん、平気……」
「オイ、俺は」
「あったかいの飲むでしょ?オレが作ったげるからァ、なんでもゆってネ!」
「ありがとう」
「……俺は」
三人は揃ってエレベーターへ乗り込んだ。
ガラステーブルに置かれた三客のコーヒーカップからは湯気が立ち昇る。龍也と向かい合う真里は明らかに苛立っていた。
「何も知らねぇガキのくせに、イキがってんなよ」
龍也の嘲笑を受け、真里が勢い良く立ち上がる。
「ンだとォ!ガキかどーか、見してやんよ!」
「上等だ。いいよな、夢子」
「え、あ、……はい?」
成り行きを飲み込めないままの夢子が、カップを持ったままぱちぱち瞬きを繰り返す。返答は承諾と受け取られたらしい。
「オレ、風呂いれてくっから!夢子ちゃんは風呂好きだよネ!」
いらぬ情報を置き土産に、真里は鼻息荒く風呂掃除へ向かったようだ。くつくつと笑みを漏らしながら、龍也が「見せてもらうぜ」と夢子を小突く。
(なんでこんなことに……)
着ていた服を脱衣カゴへ落とし下着へ手を掛けたところで、控え目なノックの音が聞こえた。それから一拍置き小声で「夢子ちゃん」と名を呼ばれる。
「真里くん、」
後手でドアを閉めながら、真里が「しー」と唇の前に人差し指を立ててみせる。下着姿の夢子を抱き締め「ヤだったらゆって?」と呟いた。
「夢子ちゃんのこと好きだから、もっと“よく”したげたい。……待ってんからネ」
唇が触れるだけの軽いキスと幼い笑みを残し、ドアは閉められた。
「あがりました、よ」
声を掛けると同時、二人の目がこちらに向く。バスタオルを巻いただけの夢子の身体がそわそわ疼いた。
「じゃー次、オレはいるぅ。ヌケガケすんなよ?」
「ああ?抜け駆けだあ?」
いがみ合う二人を眺め、夢子が呆れるように「一緒に入ったら?」と適当な案を放り投げる。
「「ありえねーっ!」」
ベッドの端に腰かけた夢子は二人からの猛反対に負けず「どっちか残るよりは公平でしょ」と言い返した。
「……まあ、一理あるな」
「えぇー……そんならオレ、夢子ちゃんと一緒にはいればよかったァ」
「女待たせんのは趣味じゃねえんだ。行くぞ、マサト」
ぶつぶつと文句を呟く真里を引きずり、龍也は浴室へ向かった。
「お待たせえ、夢子ちゃん!」
夢子の居るベッドへ、タオル一枚でダイブした真里の身体は濡れている。
「もう。ちゃんと拭かなきゃ風邪ひいちゃうよ」
タオルで身体を包み拭いてやると、真里が自分と同じ香りを纏っていることに気付く。ボディソープだ。手を止めた瞬間。組み敷かれると同時に、身体に巻いていたタオルをベッド脇へ落とされた。幾度となく繰り返されるキスは、いつもより痛い。右腿へ擦り付けられている熱の塊は、尚も熱く硬くその形を変えていく。
「ンだよ、もう始めてんのか」
「手ェ出すなよ、リューヤ」
「さァな。夢子に聞けよ」
真里に睨み付けられるも、龍也はベッド脇に座り込み、素知らぬ顔で夢子の左足を持ち上げると親指へ軽く口づけた。途端、夢子の唇から甘い吐息が零れる。
「ええ、夢子ちゃん今の“良”かったん?」
「ンな事聞くか」
龍也は苦笑しながら足への愛撫を続ける。親指を口に含み、咥内で舌を這わせ――時折、反応を窺うように夢子の顔へ視線を落とした。
自身の下で全身を震わせる夢子を否が応でも感じ、真里が指先を口に含み唾液に塗らす。濡れた指先は夢子の太腿を割り、潤んだ中心部をそっと撫でさする。そこから内部へ進むまでもなく、蜜が溢れていることは明白だ。
「夢子ちゃんのかわいー声、リューヤに聞かせてやんなよ」
切なげに眉根を寄せた夢子が首を振る。
「嫌われてやんのォ」
「うるせー」
含み笑いの真里は、夢子の内腿まで滴る蜜を指先へ擦り付けそのまま“後ろ”へ滑らせた。窄まりを突くと、夢子の身体が大きく跳ねる。
「真里く、そこ、……っ」
狼狽える夢子へ、真里は事も無げに「コッチでしたことないの?」と問うた。
「あ、あるわけないでしょ……」
「オレと“初めて”のコトしたらさァ、夢子ちゃんはオレのこと、ずっと忘れないよネ?」
真里は“昔の男”に嫉妬しているのだと解った。押し黙る夢子の硬い表情を汲んだ龍也が舌を打ち「マサト」と名を呼ぶ。
「そこは色々と“準備”が要るんだ。今すぐにはできねーぞ」
「んー……じゃあまた今度。約束ネ、夢子ちゃん」
「オイ、夢子怯えてんじゃねーか。やめろ」
「なんでよ?リューヤに関係ねーじゃん」
「夢子が断れねーのにつけ込んでんな?いつもこうなのか」
弱弱しく首を振る夢子を叱り付けるように、龍也が視線を合わせる。
「ハッキ言わねーと、コイツ調子に乗るぞ」
「……真里くんがしたいなら、」
「俺はオマエの気持ちを聞いてんだ、夢子」
「……ちょっと怖いから、あんまり、無理しないでほしい、けど……」
「ヤじゃないよネ、夢子ちゃん」
こくりと頷いた夢子を褒めるように真里が笑い、口づける。
「甘やかすなよ」
「もー、リューヤうるさい」
べえと龍也へ舌を出し、真里は夢子へ向き直った。
「夢子ちゃんにはァ、オレを“全部”あげるって決めてんの。夢子ちゃんのぜーんぶオレのもんだから、ネ?だあいすきだよ、夢子ちゃん」
笑んでいる筈の真里の表情は、どこか虚ろにも思える。彼女に対する――異常とも言える真里の執着は、どこから来るのだろう。薄ら寒い思いに龍也が眉を顰めた。
「グチャグチャになってんし、もーダイジョブかな」
手早く避妊具を着け、自身の屹立を夢子へ突き立てた。夢子の中心は真里自身をすんなり受け容れ、痛みもそれ程感じない。
「いれてんときココいじると、夢子ちゃんすぐイっちゃうよネ」
浅い抽送の傍ら、小粒の膨らみに親指の腹を触れさせる。そこを刺激すると――真里の言葉通り――夢子は間も無く達した。ぐったりと力の抜けた夢子を引き起こし、身体の中心を繋げたままで四つ這いを促す。床に座る龍也と視線を合わせることとなり、夢子が顔を伏せる。
「ダーメ。顔上げて」
耳元に真里の声。髪をかき上げ、耳朶を舐る。夢子の弱いところは充分に知られているようだ。
「夢子ちゃんのきもちー顔、リューヤに見してやんなきゃネ。とろっとろにトケちゃう、かわいー顔ォ」
愉し気に微笑い、抽送を再開させる。大きな水音が上がるたび、シーツを掴む夢子の指先が震える。不意に伸ばされた夢子の小さな右手を思わず掴み、掌で包み込んだ。薄っすら汗ばんだ額、紅潮した頬。見ないで、とも、見て、とも取れるその煽情的な表情から龍也は視線を外せない。
腰を撃ち付けるような深い挿入に、夢子は膝から崩れた。夢子の腰を鷲掴む真里の指先にはひどく力が入っている。――彼も、達したのだ。
「うでまくら、したげる」
真里に抱き寄せられ、まだ収まらない互いの鼓動を共有する。うとうとと瞼を閉じかけている真里へ「眠い?」と問うた。
「んー……ちょっと寝る、からぁ……夢子ちゃん、ココにいてよォ……?」
返事のかわりに頬を撫でる。掌と頬の熱が溶け合う温かさに心底安堵したように、真里は間も無く眠りについた。
→ロゼ (2/2) #
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