ココロ、バラバラ
自分の部屋なのに、余所余所しさを感じるのは気のせいだろうか。
夢子はトオルのジャケットを羽織ったまま、部屋の照明を点けた。彼は玄関先で所在無げに佇んでいる。
「上がらない?」
不規則なままの鼓動と震える膝を隠すように、わざと明るく声を上げる。
「……その……耐えられそうにない、から――」
バツが悪そうに頭を掻いて、トオルは視線を落とした。夢子がその〈意味〉を聞こうとしたとき。
「夢子のこと、傷付けちまう」
叱られた仔犬のような瞳で、トオルは真っ直ぐ夢子を見つめた。
「……いい、よ」
ワンピースの裾を気にしながら夢子が呟く。
「トオルさんになら……いくら傷付けられてもいい」
そっとトオルの手を取って頬に当てる。大きな掌はひどく高い熱を持っているように感じた。
「だから……今だけでいいから、一緒にいてほしい、です」
おずおずと触れたその唇も、熱を帯びていて。何処か遠慮がちで、それでいて激しく互いを求めていた。
「力、抜いて」
何時の間にか固く握り締めていた掌に、そっと唇が触れる。そのまま右手の人差し指にトオルの温かな舌が絡んだ。
「っ、……」
湿った音と柔らかく温かな感触に、一瞬で背中が粟立つ。
どうしようもない程、強い快感に襲われて。見下ろしてくるトオルの視線に耐えられなくなり、夢子は顔を背けた。
「夢子が嫌なら止める。……今なら、まだ間に合う」
トオルの低い声に夢子は首を振る。
「違……おねが、やめな……で……」
指を絡ませると、彼も微かに震えていた。きつく互いを抱き締める。それはまるで自分を抱き締めているようだ。
「本当にいい?」
耳元で囁かれ、夢子は小さく頷いた。
「トオルさんだから」
きつくしがみついたトオルの身体はひどく熱い。彼の指先が触れるたび、そこから溶けていきそうになる。
行為の最中、皮膚が邪魔だと。そう思ったのは初めてだった。もっと直接、彼自身を感じたい。
「夢子。――愛してる」
トオルが囁いた甘い筈のその言葉は、心に小さな棘を刺した。
どうか、これが最後のキスにならないように。唇が触れるたびにそう思う。
身体はひとつになったけれど、夢子の心はバラバラになった。それはどこか必然性を帯びていた。きっとわかっていたのだろう。こうなることを。
それでも夢子に後悔はない。自分で決めたこと、そして望んだことだから。
トオルに身体を寄せて夢子は目を閉じた。このまま永遠に目覚めなければいいと――心の片隅で思いながら。
05.[ココロ、バラバラ] end.
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2005/08/27 up.
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