Thanks for your WEB-CLAP. 藤原拓海【とりあえず、】
雪の舞い始めた夕刻。煌々と明るいガソリンスタンドの照明を見遣り、ウィンカーを点滅させる。
「こちらへどうぞ!」
手を挙げ誘導してくれる女性店員。現在の客はどうやら拓海一人のようだ。エンジンを切り、開けた窓から声を掛ける。
「とりあえず満タン、現金で」
「あざす、ハイオク満タン入りまーす」
給油口へホースが挿され、勢い良く流れ込んでくる燃料の音。
「室内の清掃にお使いください。窓、お拭きしてよろしいですか」
「お願いします」
薄っすら赤くなった手でタオルを渡してくれる。吐息が白く弾んでいた。拓海は窓を閉め、タオルでその辺を適当に撫でる。
彼女が窓を拭く姿をのんびり観察。フロントから運転席、リアウィンドウをてきぱき拭いて、車をぐるりと一周していく。
「どしたの、拓海。給油ならバイト先行けばいいのに。ここ遠いでしょ」
再度開けた運転席の窓から、やや小声で問い掛けられた。
「オレ今日バイト休みだし、夢子に会いに来たんだよ」
「うわー嬉しいなあ」
「本当だって」
「はいはい、分かった分かった。ありがとね」
言い訳を展開させようと身を乗り出したところで、ちょうど給油が終わったらしい。
「キャップ、オッケーっす」
パチンと給油口が閉じられた。会計を済ませ、手渡された釣銭とレシート。手が触れたような気もするけど、たぶん気のせい。
やっぱり仕事中はダメだな。拓海は一人納得してエンジンを始動させる。

夢子は既に、出口付近に居た。ぴんと伸びた背筋、左の手のひら。
車列は途切れない。進行方向の赤信号まで待つか、と一息吐いた時、ヘッドライトへ熱い視線が注がれていることに気付いた。
苦笑いを含ませた拓海が、運転席から投げ掛ける。
「夢子、そこ好きだよな」
背中で浅く頷きながら笑み、ライトの縁を撫でた夢子は、何事か思い付いたように顔を輝かせて振り返る。
「ねえ拓海。今夜、在庫さらいに行くわ」
チュ、と指先で適当にキスを投げて寄越す。
「待ってる」
相好を崩した拓海が頷くと間もなく、信号が赤に変わった。直後、右方向からゆっくりと進んできた鈍色のセダン。
夢子はドライバーと視線を合わせて頭を下げ、道路へ跳んで拓海を誘導する。
目の前を通過する際に軽く手を挙げると、満面の笑みを返してくれる。だからオレは、夢子のことが好き。

「ありがとーございましたー!」

開け放ったままの窓から飛び込んでくる夢子の大声。そして舞い込んでくる雪は、とても心地良く感じられた。






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