Thanks for your WEB-CLAP. 秋山渉【りんご×ほっぺ】
汗ばんだ身体を風が撫でていく。肌寒ささえ、今の夢子には心地良い。
むにゃむにゃとあくびを漏らして凝った背中を伸ばすと、駐車場に入ってきた一台の車が夢子の視線を奪った。
自販機付近に停められたそれは、白と黒、ツートンカラーの〈レビン〉。
運転席から降りた彼は周囲を見渡し、自販機の前に立つ。程無くして、静まり返った駐車場に缶飲料の落下音が響く。
こちらへ歩を進める彼が、何でもないことのように手を挙げた。慌てて頭を下げるが、夢子の心音は不規則に躍る。
「夢子。帰るとこか」
「――渉さん。だいぶ、眠くなってきたので」
「居眠りすんなよ。これ、苦くないから夢子も好きだと思うぜ」
思いがけない贈り物に虚を衝かれた夢子は呆けたようにじっと、差し出された右手を見つめる。
躊躇いを乗せた右手を伸ばすと、冷えた缶コーヒーを寄越す渉の熱い指先に一瞬触れた。
「……あ、りがと、ございます……」
「ほっぺた赤くして、どうしたんだ」
リンゴみたいだな、と半笑いで呟いた渉は夢子をじっと注視する。見守るような、穏やかな表情。
急上昇する体温を感じ、顔から火が出る思いを噛み締めた夢子は、左手でぱたぱたと顔を仰ぎながら言葉を探す。
「えっと……暑いですよね今日!」
「ま、暑くはなりそうだけど」
顔を出し始めた太陽を二人で仰ぎ見た。夏空は既に、夏の匂いを運ぶ。
やがて渉は、掌で一度だけ夢子の頭に触れ「それじゃ」と息を吐いた。
「気をつけて帰れよ。またな、夢子」
その言葉には恐らく、深い意味などないのだろう。ただの挨拶。
流れるように走り去るレビンの後姿を見送ると、知らず知らずのうちに溜息が零れる。
薄っすらと水滴をまとい始めた190グラムの優しさを握り締め、頬に当てるとキンと冷たい。
「また、ここで。……渉さん、」
夢子のか細い呟きは誰にも届かない。――それでも。
唇に、隠しきれない笑みが浮かんだ。履き慣れたスニーカーで駆け出した夏の朝。
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「夢子。帰るとこか」
「――渉さん。だいぶ、眠くなってきたので」
「居眠りすんなよ。これ、苦くないから夢子も好きだと思うぜ」
思いがけない贈り物に虚を衝かれた夢子は呆けたようにじっと、差し出された右手を見つめる。
躊躇いを乗せた右手を伸ばすと、冷えた缶コーヒーを寄越す渉の熱い指先に一瞬触れた。
「……あ、りがと、ございます……」
「ほっぺた赤くして、どうしたんだ」
リンゴみたいだな、と半笑いで呟いた渉は夢子をじっと注視する。見守るような、穏やかな表情。
急上昇する体温を感じ、顔から火が出る思いを噛み締めた夢子は、左手でぱたぱたと顔を仰ぎながら言葉を探す。
「えっと……暑いですよね今日!」
「ま、暑くはなりそうだけど」
顔を出し始めた太陽を二人で仰ぎ見た。夏空は既に、夏の匂いを運ぶ。
やがて渉は、掌で一度だけ夢子の頭に触れ「それじゃ」と息を吐いた。
「気をつけて帰れよ。またな、夢子」
その言葉には恐らく、深い意味などないのだろう。ただの挨拶。
流れるように走り去るレビンの後姿を見送ると、知らず知らずのうちに溜息が零れる。
薄っすらと水滴をまとい始めた190グラムの優しさを握り締め、頬に当てるとキンと冷たい。
「また、ここで。……渉さん、」
夢子のか細い呟きは誰にも届かない。――それでも。
唇に、隠しきれない笑みが浮かんだ。履き慣れたスニーカーで駆け出した夏の朝。
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