CR-X A Go Go!!
「ただいま、夢子」
「おかえりなさい。お疲れ様……と、おめでとうございマス」
「ああ。――少しドライブしないか?」
"仕事"を終えて帰ってきた智幸が、珍しく誘ってくれた。途端、夢子の表情が華やいだが――智幸を気遣うように首を傾げる。
「すごく嬉しいけど……いいの?智幸、疲れてるでしょ」
「電話の声が寂しそうだった。俺にとっては、そっちの方が大事だ」
智幸の言葉に、夢子ははにかむように笑いCR-Xのナビに乗る。東堂塾のホームコースとは別の峠、他愛ない話をしながら流していた。
そろそろ帰ろう、と夢子が言おうとした時。バックミラーに後続車のライトがチカリと煌き、どんどん近付いてくるのに気付く。
「……ねぇ智幸、こんなとこでバトルとか……しない、よ、ね?」
「向こう次第だな」
後続車は鼻を寄せ、ロービームとハイビームを交互に繰り返している。車内はその度に光の量を変える。この行為は多分、バトルの申し込み。夢子は恐る恐る運転席の智幸に目を遣る。
「成程――そう来るか。そうだよな、R33」
智幸が唇の端だけで微笑い、夢子はとてつもなく嫌な予感が当たったことを知る。
「夢子、少し飛ばすぞ。つかまってろ」
「ちょ、智幸ストッ――」
次の瞬間激しく揺さぶられ、夢子の言葉は泣き声のような悲鳴に変わった。
「いい加減、慣れてくれてもいいんじゃないか」
苦笑するような声に顔を上げると、運転席に腰を下ろした智幸が缶コーヒーを差し出してきた。
「だって……怖いんだもん」
ジェットコースターは勿論、メリーゴーラウンドやコーヒーカップすら嫌がる夢子。いくら智幸の運転だからとはいえ、峠を攻められたらひとたまりもない。
そういえば、後ろに居た筈のR33はコーナーを3つ抜けたところで姿を消していた。
夢子は素直に缶を受け取り、頬にそっと当てる。
「わ、ひゃっこい」
「大丈夫だったか?」
「……まったく大丈夫ではないです」
ぷくりと頬を膨らませて智幸を見上げてきた。泣きそうに潤んだ瞳にひどく――欲情をそそられる。
「悪かった。もうしない」
「荷物積んで峠下るなんてダメ」
「……何?」
「下りは軽い方がいいんでしょ?あたしが乗ってたらハンデになる」
あたしがいなかったらもっと軽くチギれたのに、と呟くと夢子は眉根を寄せて俯いてしまった。
「夢子ならあと3人乗っても大丈夫だろ」
「……多いよ」
「俺は負けない。どんなハンデがあっても絶対に」
何よりも誰よりも、夢子のために。
ナビの夢子は缶を振り、プルタブを起こそうとしている。カツン、と爪を引っ掛ける音が数回したかと思ったら、唇を尖らせてむくれた。
「開けて、智幸」
「ああ」
差し出された缶を受け取ってそのまま、夢子に覆い被さるように口づける。驚いたように身を竦める夢子を抱き締めて、口腔内を侵す。遠慮など在り得ない。
「……ん……とも……ゆ、スト、プ……っ」
「今更止まると思うか?」
「や……ぁ……」
「今ここで俺に夢子を食わせろ」
何しろ俺はひどく餓えていたのだから。夢子の笑顔、匂い、感触、存在――その全てに。
車と俺は急には止まらない。夢子ならよく知ってるだろう?
放たれた弾丸を止める術など何ひとつ無いということを。
[CR-X A Go Go!!] END.
お題:ストップ
舘智幸 搭乗車種:CR-X(捏造)
2005/03/25 up.
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