DIVE INTO YOUR BODY
ダビデ像って知ってる?――そう、ミケランジェロが作った大理石の彫刻。

左手に持っているのは投石道具なんだってね。巨人を倒すときに使ったらしい。教科書やテレビなんかで見たことあるんじゃないかな。すごく有名だし。

何でこんな話をしたかというと、今俺がそのポーズをやらされているから。投石道具の代わりに、左手にはプラスチックで出来たミカンを持っている。



勿論、全裸で。



「ちょっと、動かないで」

大きなスケッチブックを抱えた夢子が鋭く言った。

「……動いてないですよ、夢子先生」

夢子は高校で美術の教師をしている。空調の効いた夢子の部屋は"アトリエ"と言った方がしっくりくるような雰囲気。

キャンバスや絵の具、石膏なんかで雑然としている。色んな匂いが混ざっていて、それでも何故か不快じゃない。一種のフェロモンなんじゃないかと俺は思う。



一介の整備士である俺が"女教師"と付き合っていること。周囲からは不思議に思われているらしい(特に大輝)。

夢子と初めて会ったのは去年の夏。海のない栃木県、ベタベタと暑さがまとわりついていた。

アスファルトが殺人的な温度になる頃、突然車が動かなくなった――と店に現れたのが夢子だった。

"整備"の看板が見えたからとりあえず来てみた、と額の汗を拭って言った。

共に向かった先に在ったのは、停止表示器材を出して路肩に停まっているシャンパン色のコペン。原因はバッテリー上がりだとすぐにわかった。作業はそれほど難しいものじゃない。

「JAFや保険会社には連絡しなかったんですか?」

「あ、やだ。あたし会員なのに。パニクって忘れてた」

照れるように笑った夢子と、濃密な視線が絡んだ気がした。



汗を拭う姿に一目惚れした――と伝えたのは、「ありがと。また来るね」と夢子が手を振った帰り際。

ロマンチックには程遠い告白に、少し驚いたように手を止めて「今度はあなたに会いに来るから」と笑っていた。



「じゃあ……動かさないで、ソコ」

甘い回想を遮るように夢子が指差したのは俺の、身体の中心。

「……ココは俺の意思ではどうにもならないんだけど」

「もー。せっかくノってきたのに」

描きかけのスケッチブックの上、鉛筆を転がして夢子が笑う。


夢子、何で俺がモデルなんだよ」

「だって他に居ないし。生徒脱がしてもイイの?」

「そんなことしたら即クビだろ」

「でしょ?じゃあいいじゃん」

「……ああ」


何がいいのかは解らないけれど、渋々頷いた。


「あれ、このゴム……」

「気付いた?可愛いでしょ」

夢子が髪を束ねているのは黄色いヘアゴム。

「昨日見つけたの。スマイリーだよ」

「へぇ」

「この間、大輝くんがね」

言葉を止め、可笑しくてたまらないとでも言うようにくすくす笑っている。

「何?」

「スマイリー酒井って、教えてくれて」

「……そう」

「あたしも見てみたいな〜」

「ダメ」

「ちぇ。あたし乗せてるとき超安全運転だし」

「当たり前だろ」

「どして?」

きょとんと小首を傾げて夢子が問う。ポニーテールが揺れている。


「大切だから」


そっと夢子の頬を撫でる。出会う前から夢に見ていた――そんなこと言ったら、夢子はきっと笑うだろう?だから言わないでおく。

午後の柔らかな日差しが差し込むアトリエで、夢子のカラダへ鮮やかなダイブ。





[DIVE INTO YOUR BODY] END.

お題:スケッチブック

2005/09/10 up.


酒井||0:top