夏の昼下がりは「うとうとする」のが正しい過ごし方だと思う。
庭の木々の葉が揺れて微かなざわめきが落ちている。歴史のある、由緒正しい――そんな表現が似合う日本家屋。板張りの縁側。
智史は夢子の膝に頭を預け、手足を放り出している。規則正しい寝息が聞こえる。
智史の黒髪をさらさらと撫でて、夢子がそっと呟く。
「ねぇ智史。ずっと、私のそばにいてね」
囁くようなその言葉、返事はないとばかり思っていた。
「ああ、もちろん」
「……起きてたの?」
「タヌキ寝入りならまかせろ」
「ズルいね、智史」
「まあな」
ふ、と二人で微笑う。蝉の合唱も快いBGM。
ゆっくりとうちわを動かす夢子の手元を見詰めていた智史が、ふと思い出したように言った。
「こないだ、夢見たんだ」
「ゆめ?」
「ああ。夢子が居なくなる夢だった」
「そう……」
「すげえ怖かった」
「私は、いなくなったりしないよ」
少し強い口調で夢子が繰り返す。
「……私は、智史のそばからいなくなったりしない」
「俺と居てくれるのか、夢子」
頷いた夢子の頬に智史が手を伸ばす。滑らかな肌に触れると、夢子が微笑った。
「くすぐったい」
その微笑は唇から零れて、智史の鼻先をくすぐる。
睡魔に身を委ねるように目を伏せる。
夏の昼寝ほど、抗い難い魔力を持ったものは無い――と智史は思っている。しかも夢子の膝枕。これ以上のシチュエーションはない。
「井戸でスイカ冷やしてるから、もう少ししたら食べようね」
「ああ」
夢子から投げ掛けられた魅力的な言葉に辛うじて返事をすると、智史はすぐ寝息をたて始めた。
どうやら、今度は本当に眠っているようだ。
「……すき」
迷った末に囁かれた夢子の声に、智史の口元が微かに緩んだ。
きっと、何もなくても。もし、全てが在っても。二人は変わらない。
夏の終わりを感じさせる風が吹いて、風鈴がチリンと高く鳴った。
[うたたね]END.