私には、好きな人が居る。普段はマジメな会社員で、銀色の車に乗っていて、眼鏡が似合う人。
好きな子が居るらしい、と噂で聞いた。
そのくらいで諦めるものか、と思っていたけど……これが結構しんどい。
青空を見上げて溜息を零したことなんて、もう何回あったか数え切れない。
暖かな夕暮れ。
行きつけのゲームセンターを冷やかしていた夢子がふと足を止めたのは、UFOキャッチャーやクレーンゲームのコーナー。
どうも苦手で、今まで一度も成功したことがない。
積まれている景品のひとつ、黄色いアヒルに目を留めた。サングラスをかけてネクタイをして笑っている。
延彦に似てる、かも?本人に言ったらきっと嫌がるだろうけど。
「よし……これが取れたら告白する!」
意気込んでコインを入れた。
はずれ。
はずれ。
はずれ。
かすったけど、はずれ。
はずれ。
「むぅ……諦めろってこと、か……?」
溜息を吐いた夢子が、名残惜しげにその場を離れた。
「夢子」
声を掛けられて振り向いた夢子が、呆気に取られて目を見張る。
「延彦……来てたんだ」
「通り掛かったら夢子の車見えたから。……コレ、やるよ」
彼の掌に乗せられていたのは、さっき夢子が狙っていたアヒル。
「そんなに欲しかったのか?」
あれ?この場合、どうなるんだろう……
「いらないの?あんな必死になってたのに」
「……ありがとございマス」
「どういたしまして」
アヒルを受け取った夢子が言葉を探す。
「えーとね」
「ん?」
「……何でもない!」
「なんだよ、夢子」
「いーの!ねぇ延彦、対戦しよーよ」
「いいけど……夢子すぐ本気になるからなぁ」
「負けたらガソリン奢りね」
「……マジ?」
「マジ。しかも満タン!」
眉をしかめる延彦を見つめて夢子が微笑う。
「行こ!」
左手にアヒルを握り締め、右手で延彦の手を取った。
私の本当の気持ち、延彦に見てほしいけど。今はまだ、このままで居たいかも。
右手の温もりで、空もキレイに飛べそうだよ。
[空の青と本当の気持ち]END.