せめてあと3cm、大きくなりたい。そしたら150cmになるのに。
「大きくなりたいな……」
雑誌をめくる涼介の隣で、クッションを抱えた夢子がぽつりと呟いた。
「夢子はそのままでいいと思うぞ」
「私から涼介にキスしたいのっ。……それに、緒美ちゃんよりちっちゃいんだもん」
助手席に座っているときや寝ているときは気にならない〈身長差〉。
並んで歩くとまるで兄妹のように見えてしまう。
それがここ最近の夢子の悩み。
「……牛乳……」
思いついたように夢子が立ち上がり、冷蔵庫から牛乳パックを取り出した。
マグカップにたっぷり注いで、ほんの少しだけ砂糖を入れて。
電子レンジの中で回るカップを眺める夢子の横顔は、何かを期待するように輝いている。
電子音が鳴り、いそいそと取り出して早速一口。
「熱っ」
「何やってるんだ」
夢子の手からマグカップを取り上げてテーブルに置いた。
薄い湯気の向こう、呆れたような涼介の表情に夢子がうなだれる。
「そんなに気になるのか?」
「だって〜」
不意に、涼介が夢子を抱え上げた。
「これならどうだ」
お姫様抱っこのおかげで、すぐ近くにある涼介の顔。
「……うん、いいかも」
夢子が涼介の頬に小さく口づける。
「夢子が大きくなるんじゃなくて……俺が屈んだりすればいいだろう」
「あ、そっか。涼介頭いーね」
「今頃気付いたか」
「んーん。知ってたよ、はじめから」
「そうか」
くすくす笑う夢子をそっと下ろす。
温めた牛乳は、大分冷めたみたい。
「悩んでたんだけど、お砂糖と一緒に溶けちゃった」
「それは良かった」
微笑った涼介が背中を丸めて夢子の唇に触れる。それは砂糖入りの牛乳よりも甘いキス。
もう背は伸びないかも知れないけど……レンジであっためたミルクに、たまには付き合ってね。
[レンジでミルク]END.