ourselves
「ねぇ健二」
「ん?」
「好きって、言ってくれないよね」
「……何だよ夢子、急に」
「急じゃないよ」
仄暗い照明と空調の微かな音で満たされた部屋。夢子はベッドの中で健二に背を向けた。
熱を帯びたふたりの間に、ほんの少しだけ空いたスペース。そこへ冷たい空気がスルリと忍び込んでくる。

「隙」
「……それ意味違くない?」
夢子は隙だらけだからなぁ」
健二にポンと頭を叩かれて夢子がむくれる。
「お風呂、入ってくる」
素っ気無く背中で呟いてベッドを下りる。脱ぎ散らかした服を避けて進み、バスルームの照明を点けた。





私は真剣なのに……あんな風に茶化すこと、ないじゃない?




温い湯を半分程溜めたバスタブの中で体育座り。夢子は背中を丸めて膝頭を眺めていた。
告白したのも私からだし、いつも好きと――だって本当の気持ちだから――言っているのも私。
私は健二にたった一言、「好き」って言ってほしいだけなのに。



「……健二のバカ」
「ご挨拶だな」
「――っ」
いつの間に。
振り向く暇もなく、背中に健二の体温を感じた。互いの身体に響く互いの鼓動。



「好きだよ、夢子
バスタブの中で思わず振り返る。
「笑ってる夢子も、泣いてる夢子も、拗ねてる夢子も、甘えてくる夢子も全部……好きだ」
驚く夢子にそっと触れるだけの優しいキスをひとつ。


「ほら、オレが言った通り。隙だらけだろ」
「……ズルいよ健二」
そんなこと言われたら誰だって、嬉しくて隙だらけになって当然。
甘い意地悪に抵抗するように、今度は夢子からキスを送る。それもとびきり甘いキス。
舌が絡む度、引いていた熱がゆっくりとぶり返してくる。





世界中の誰も知らない――だけどたった一人、健二だけが知っている私がここに居る。
健二もまだ知らない――私も知らない――私が居るかも知れない。





「さっきの言葉、ベッドで聞かせてよ」
夢子は健二の黒髪に触れて耳元で囁いた。時刻は0時を少し回った頃。ふたりの夜はまだまだこれから。





[ourselves]END.