言わない関係
繋がってるのはカラダだけ。それで満足――する筈だった。
それなのに今、オレはどうしてこんなに苦しいんだ?



「悪い、待った?」
「うぅん。さっき着いたとこだから」
駅前のロータリーにハザードを点けて停まったのは黄色いRX-7――FD3S。
啓介はナビ側のドアを開け、夢子をシートに座らせた。

「何食いたい?」
「啓介」
「……オレもお前のこと食べたい」
運転席から身を乗り出して小さく口付けた。柔らかいその感触に、啓介の理性は簡単に吹っ飛んでいく。
するりと舌を滑り込ませる。
「ん……、ココでするの?」
「さすがに捕まっちまうだろ」
「ふふ。目の前交番だしね」
苦笑して体を離し、FDを発進させた。



夢子に会えるのは2週間に一度、ほんの数時間だけ。
本当は毎日会いたい。毎日キスしたい。セックスだって――できれば毎日――したい。
でも我儘は言えない。彼女は既婚者――いわゆる「ヒトヅマ」だから。



夢子ってマジ食いっぷりイイよな」
「そう?」
「ああ。小食ぶるオンナよりよっぽどソソる」
「あはは。そんな可愛いコトしてらんないよ。本能には忠実に生きたいもん」
夢子らしいよ」
目の前で遅いランチを平らげていく夢子を眺め、啓介は笑んだ。



もっと、夢子のことを知りたいと思う。それでいて、これ以上知りたくないとも思う。
いくら知っても、薬指に光る石は壊せないから。
オレの中で日増しに、「オレのものじゃない」夢子の存在が膨らんでいく。
くしゃくしゃにしたストローの紙袋に、水を一滴含ませるようにじわじわと。



触れ合う唇に遠慮はない。口腔内を侵し侵されるにつれ、抑えられない欲情が昂っていく。
「奥まで突き上げて、何回でもイかせてやるよ」
耳元で囁いて、一気に夢子を貫いた。
「ぁ、っ――」
ひくりと喉を反らしてシーツを握り締める。きつく目をつぶって、本当に微かな抵抗を示す。
それでいて夢子のそこは潤っていた。前戯の必要もないくらい充分に。



時間の感覚すら麻痺するホテルの一室。
オレは必死で夢子の心の入口を探している。そんなこと――夢子の前じゃおくびにも出さないけれど。
余裕なんか少しもない。夢子が好きで、好きで。どうしようもなくて。
好きだと一言、言いたい、言ってほしい――
せめて2人でいるときは、オレのことだけ考えて。紙切れ一枚で繋がる奴より、目の前で体を繋げているオレのことだけを。




感じる前にただぐるぐると考えてばかりいる。




「け、すけ……」
背中に回された細い腕。立てられた爪の痛みさえ甘くて愛しくて仕方ない。
夢子をきつく抱き締めて抽送のスピードを上げる。
「……夢子……っ」
オレの下で喘ぐ愛しいひとの名前を呼ぶのが精一杯だった。



もっと早く、夢子と出会っていたら。夢子が結婚していなかったら。
もしこうだったら、なんて。考えても無駄だってわかってる。
それでも考えずにはいられない。考えれば考えるだけ、底なし沼へ沈んでいくような――無限のループに捕らえられて。



「だめ、またイっちゃ、……っ」
夢子は小さく悲鳴を上げてびくびくと脚を痙攣させた。何度目の絶頂かなんて、もう数えていない。
現実か、幻想か――わからなくなりそうだ。
触れ合う素肌だけが確かな現実。それすら失いそうで、オレは夢子を抱き締める腕に力を込める。
いっそのこと――このまま壊してしまえたらいいのに。


「オレも、イく――」
夢子の中に吐き出した欲望は薄いゴムに阻まれて行き場を失くした。
零れそうになった言葉と涙は必死で飲み込んだ。





なあ……夢子。言わなくてもとっくにわかってんだろ?オレの――本当の、気持ち。
壊れるくらい、愛してるぜ。





[言わない関係]END.