Melty Love
「ねぇねぇ清次、これで大丈夫かなぁ」
「……あのなぁ夢子。オレは京一じゃねぇんだから知らねぇよ。……ったく散々毒見させやがって」
「失礼なー!味見でしょ!?」
清次に突っ込みを入れながらも、CN9Aの助手席で夢子はソワソワと落ち着かない様子。
週末を丸々チョコレート作りにあてて、清次に味見係を任命した。
甘過ぎたら京一に食べてもらえないかも知れないから、甘さを控え目に作ったトリュフ。京一と付き合って初めてのバレンタイン。
CN9Aが明智平に近付くにつれ、鼓動が高鳴るのをハッキリと感じた。



「清次ー、今日のあたし……どこか変?」
皆の目がなんかいつもと違う、と不安げに呟く夢子
「お前に見とれてんだろ」
「え?」
「気合入ってるもんな」
駐車場に降り立った夢子はファーコートにミニスカートをさらりと着こなす。スラリとした脚にブーツがよく似合っている。
「……可愛い?」
エンペラーのメンバーに恐る恐る聞いてみると、何故か拍手が沸き起こった。
「カワイーっす!」
「最高ー!!」
夢子が照れながらもノリノリでキャットウォークを披露している最中、清次が問うた。
「京一は?」
「ああ。もうすぐ戻って来ると思うぜ」
「じゃあ先に配っとくか」
「え、何すかー清次さん」
夢子の手作りトリュフ」
「マジか!」
「くれるんスか!?」
「いっぱい作ったから、皆に食べてもらおうと思って。形は悪いけど、味は大丈夫だよ」
「2日間に渡るオレの毒見の成果だぞ」
「……味見、です」
夢子が言うが早いか、清次の元へメンバーが群がった。
「バカ、並べっ!」
揉みくちゃにされた清次の怒鳴り声が響き、皆が渋々と大人しく列を作る。



「ありがとうございます夢子サン!」
「いただきます!」
「はぁい。召し上がれー」
夢子は清次の隣で列を眺め、くすくすと笑っていた。
「どうした?」
「うん……『配給』ってこんな感じだったのかなぁって思って」
「相手は飢えた野獣達だけどな。……あ、コラお前2回目だろ!」



パァン、という音が夢子の耳に届いた。京一のCE9Aだ。
程無くして駐車場に、黒い皇帝が滑り込んでくる。



「……何の騒ぎだ」
夢子さんからチョコいただきました!」
「超ウマイっす!」

「はい、これ。京一のは甘さ控え目にしたから、良かったら食べてみて?」
はにかむように笑った夢子から渡されたのは薄桃色の紙袋。
少々面食らったといった表情で、京一は中からキレイに包装された箱を取り出した。
乱雑に開けていくと、白と黒のトリュフがさながら宝石のように整然と並んでいる。
外灯に輝くそれをひとつ抓んで口に放り込んだ。


夢子は不安気に京一を見上げている。


「味見はしたのか?」
「うん、清次にも食べてもらって。あたしにはちょっと苦かったけど……」
「充分甘いな。――ほら」
夢子の腰を抱き寄せ、京一は唇を貪った。ココアの匂いがふわりと鼻から抜ける。
「ん……っ」
夢子の舌を吸い上げた京一は満足気に唇を離した。2人の間に透明な糸が引く。


「どうした夢子。顔が赤いぞ」
「やだ、皆見てるのに……」
京一は頬を染めた夢子の腰を抱いたまま微笑った。
「気にするな。サルだと思っていればいい」
俯いた夢子を尚抱き寄せる。


「うちに来るか?」
「え……明日も仕事でしょ?」
「構わない。チョコの礼に夢子を溶かしてやるよ」
夢子の耳元に唇を寄せて「勿論ベッドで――存分にな」と低く囁いた。



メンバーは顔を覆い、それでも指の間からしっかりと一部始終を覗き見ている。
明智平を後にするCE9Aのリアを眺め、清次は溜息と共に「ごちそーさん」と呟く。
いろは坂にCE9Aの咆哮だけが響いていた。





[Melty Love]END.