片思いの行方


「なー洋平。この音なんだ?」

「ん?あー、吹奏楽部じゃねーの?何の楽器かシラネーけど……。そういや、同じクラスだった夢子ちゃんも、吹奏楽部って言ってたよな。」

「な、ナニ!?夢子サン?」

ニヤニヤと花道を見上げてやれば、花道は思わず顔を赤らめ、キョロキョロと回りを見渡している。

「オイ、夢子ちゃんは音楽室だろ。吹奏楽部なんだからよ。それより、そろそろ休憩終わりじゃねーのか?遅れっと鬼キャプテンがキレちまうぜ。」

「ハッ……!!おう、行くか。キャプテンになったリョーちんは、ゴリより怖えーからな。じゃな、洋平。」

そう言って、花道は体育館に戻っていく。


オレは、コーヒーでも買うかと校内の自販機に足を向けた。



校内はひんやりとしていて、少し肌寒い。自販機を見つけると、迷わずあたたかいのボタンを押した。


「あれ?洋平くん?」

カップを取り出そうと屈んだところで声をかけられる。

「お、夢子ちゃん。部活は休憩中?」

「んー、もう終わったんだけどね、少し休憩したら居残り練習の予定。」

夢子ちゃんはアップルティーを買ってベンチに腰を下ろし、洋平くん、座らないの?と、横のスペースを指差している。半身程空けて、オレは隣に座った。

「洋平くん、部活入ってないよね?何か用事だったの?」

「いや、バスケ部見学。と言うよりは花道見学かな。」

「あー、納得。仲いいもんねー。そいえば今日って、桜木くんの誕生日でしょ?」

夢子ちゃんスゲーね。花道の誕生日覚えてる女の子なんて初めて見たぜ?」

茶化して彼女をイジれば、さっきの花道と同じ位赤い顔で、必死に言い訳を探していた。

「そんなカオしたら、花道が好きなのバレバレだっつーの。(ま、知ってたけどね)」

軽い口調で言えば、更に頬に赤みが増す。

「なあ夢子ちゃん、せっかく花道の誕生日覚えててくれてんならさ、今日祝ってやってよ。アイツ、スゲー喜ぶぜ?」

オレは彼女から視線を逸らす。中庭の枝垂桜はきれいに咲いて、枝は風に揺れていた。



「んー、実はその…、用意はしてみたんだけどね。いざ今日になると、やっぱり渡すきっかけが掴めなくて。」

彼女も桜を眺めながら呟く。


用意してることにちょっと驚いたけど、2年でまた同じクラスになれるかわからねえし、彼女なりに頑張ったってことか。

そう思ったら、なんか手助けしてやりたくなるな。


「ならさ、バスケ部の練習が終わったら、花道と音楽室覗いてもいーかな?アイツ、さっき楽器の音が気になってたみたいだし?なんか1曲聴かせてやってよ。」

そう言って、チラリと彼女を見遣り席を立つ。オレの言葉に、夢子ちゃんはびっくりしてたけど、小さな声で「待ってるね」と、答えてくれた。





アップルティーを飲み干して、小さく息を吐く。

洋平くん、応援してくれてるのかな。

何だか味方ができたようで心強い。

それでも、彼らがこのあと音楽室にやってくる………

そう思うと、緊張と期待と不安をごちゃ混ぜにしたような、よくわからない心地になる。


私は覚束ない足取りで、フラフラと音楽室に戻るのだった。





オレは体育館に戻って、再びバスケ部を覗く。

どうやらミニゲーム中のようで、いつものように花道は(一方的に)流川に突っ掛かってる。

バスケを始めたばかりの頃は、花道じゃ全く流川の相手にならなかった。

それが、今じゃ勝てないなりに形になってる。

どれもこれも、1年前には想像もしてなかったことだ。

花道が本気になれるものがあって良かった、と、洋平は思う。



さて。ミニゲームのあとはダウンして終わりだ。

花道も多少自主練したりするんだろーけど、1時間もしねぇうちに上がりだな。

なんつって花道を音楽室に連れてくか……。

ま、なるようになるか。

花道を眺めつつ、オレはこのあと起こるであろうことに思いを馳せたのだった。





「おー、洋平まだ居たンか?」

帰宅準備ができたらしい花道がオレを見つけて声を掛けてくる。

「用がねーなら一緒にブラブラすっか?オレ、すげぇハラ減ってよぉ。」

そりゃ、あれだけ動けば腹も減るだろう。

が、花道を音楽室に連れて行かねーとな。



花道と体育館を出て、どうすっかと思っていたら、また、楽器の音が聴こえた。

「そういや、さっき夢子ちゃんに会ったぜ」

「な、ナニ!?夢子サン!?」

急に挙動不審になる花道を見て、オレは絶好のタイミングだと、音楽室に誘う。

夢子ちゃんがさ、部活のあと音楽室で自主練してるんだと。楽器、聴いてみたいならドウゾってさ。オマエも気になってたろ?オレも行くし、行ってみよーぜ。」

そう言って校舎へ足を向ける。

花道は、動揺してブツブツ言ってるが、ついてきてるみてーだし。

ま、何とか第一関門クリアだな。

頑張れよ、夢子ちゃん。




音楽室を覗くと、残ってるのは夢子ちゃん1人。これなら、シャイな2人でも何とかなるんじゃないかと思えてきた。

夢子ちゃんはオレ達には気づいていないようで、徐にピアノに向かう。

鍵盤に指を置いたかと思うと、一呼吸おいて何か曲を弾きだした。

オレも花道も、めちゃくちゃ早く動く彼女の指に釘付けになって、目が離せない。




弾き終わった彼女に、拍手をすると、オレ達に全く気付いてなかったのか、ビックリした様子でこっちを向いた。

「よ、夢子ちゃん。すげーね。ピアノも弾けるんだ?」

そう声をかけると、

「うーん、どちらかというと、ピアノの方が得意かな。フルートは高校に入ってからだから。」

と、意外な答えが返ってきた。

「そっか。高校からか。じゃ、花道のバスケと一緒だな。」

そう言うと、夢子ちゃんも花道も顔が赤くなる。

――あからさま過ぎだろ、2人とも。

苦笑しつつ、2人を見るも、照れて下を向いてるだけ。

分かんねーのは本人同士だけなんか。



「なあ、夢子ちゃん、さっきも言ったけどさ、今日、花道誕生日なんだわ。何か聴かせてやってよ。」

そう言って、花道を彼女の前に押してやる。


夢子ちゃんは益々顔を赤くして俯いていたけど、意を決して、フルートを手に取った。

「桜木くん、お誕生日おめでとう。」

そう言って'Happy Birthday to You'を吹き始める。

オレはそこまで見届けて、そっと音楽室をあとにした。





吹き終わると、私はもう一度、

「桜木くん、お誕生日おめでとう。」

そう言って彼を見上げた。

真っ赤な顔をした桜木くんは、それでも、

「ア、アリガトウゴザイマス!」

と言ってくれた。

そんな桜木くんが可愛くて、ふふふ、と笑ってしまう。

あんなに緊張していたのに、笑えていることに驚く。

「洋平くんが桜木くんの誕生日だって言ってたけど、私、前から知ってたの。」

ちょっと待ってて。そう言って、鞄から用意していたプレゼントを取り出す。

今なら、今なら彼に言えるかもしれない……。





な、何だかよくわからんが、これはチャンスじゃねーのか?

いつの間にか洋平はいねーし。夢子サンと2人きりなんて、そう滅多にあるもんじゃねえ。

彼女を目で追いながらオレは思う。

………………
ハッ、イカン。
またキンチョーしてきた…………




夢子サンに聞こえるんじゃないかと思うほど、心臓が煩く鳴っている。

それでも、心を決めて彼女を見つめて声をかける。


「あ、ああああの、…………夢子サン!」





プレゼントを取り出して桜木くんに渡そうと振り返ったら、ガチガチになって赤い顔をした桜木くんに名前を呼ばれた。

そんな顔されたら、さっきまで落ち着いていた心臓が再びドキドキと早まる。


……………………………
……………………………


沈黙が余計に緊張を煽る。

どれくらいそうしていたのか。



「「あ、あの!」」

耐えきれなくなった2人が同時に口を開く。


……………………………
……………………………


またしても生まれる無言の空間に、夢子は俯く。





………ここで告白しねぇなんて男じゃねえ……。
オレは男の中の男、天才桜木!

よし!

オレは深く息を吸い込み、口を開く。

「ア、アノ……夢子サン!
あの、その………、
す、す、好きです!
…………
オレと付き合ってくださいっ!」


大きな体を折り曲げたまま、動かない桜木くんに、私も、真っ赤な顔のまま告げる。

「ハ、ハイ!私も桜木くんのことが大好きです!」






fin




〈おまけ〉

「桜木くん、これ、誕生日プレゼント。よかったら使って。」

「スポーツタオルすか?ありがとうございます!嬉しいっす!……その、夢子サン、一緒に帰りませんか?」

「うん。一緒に帰ろ。」


で、途中で洋平に会って、
「上手くいったンだな。おめでとーサン(ニヤリ)」
とか言われて、また2人で真っ赤になっちゃえ!



[片思いの行方]END.
writing."Aprilfool" mimi様
up date.2014/05/26