first contact


週末の妙義山に聞き慣れないスキール音が響く。

この時間のこの場所はナイトキッズのテリトリーみたいなもの。
チーム名まで知らなくても、走り屋がいることを知ってる普通のヤツは、ここには近づかない。



「なァ毅、珍しい音がすンなァ。」

「そうだな、二輪か?音が違う。」

「ちょっと見に行ってくっかな。」

「やめとけ、どうせ上がってくるんだ。」

「まァ、それもそうか。」


話しているうちに、独特のエキゾーストを響かせて1台のバイクが上がってきた。


「オイオイ、ゼッツーかよ。しかも品川ナンバー。」

慎吾が呟く。




kawasakiの750RS Z2――通称ゼッツー。
一昔前のバイクだが、人気の高いマシンだ。



チューンドされ、乗り手に合わせてきっちりカスタムされている。
整備も行き届いているところを見ると、ただのミーハー乗りじゃないんだろう。


―――へぇ、本気組かよ。


ただの好奇心だったのに、乗り手への興味が出たのか、2人の視線はバイクから離れない。



ライダーはそんなことは気づかない様子で、エンジンを切り、スルリとマシンから下りた。

メットを外した姿を見て2人は絶句する。


月明かりに照らされたのは、ショートヘアの凛とした女性―――それもとびきりの美人だった。



「なに?」

あまりに露骨に視線を向けすぎたのか、その女性は少し睨むようにしてこちらに短く声を掛ける。


「あ、イヤ、色々と珍しくてな。
申し訳ない。
オレは中里毅。こっちは慎吾。
この辺りでナイトキッズって走り屋のチームをやってる。」


「……夢子よ。」

ライダースジャケットから煙草を取り出して火をつけると、ゆっくりと煙を吸い込む。

その一連の仕草が、まるでフランス映画のワンシーンのように美しくて、毅も慎吾も呆けたように見とれていた。


「なぁに?」

毅も慎吾もよほど面白い顔をしていたんだろう。

口の端を持ち上げて2人にかけた彼女の声は、もうさっきのようなトゲはない。


ゆっくりと歩み寄り、

「ヤなことがあってさ。
ここまでZ2飛ばしてきたけど、正解だったかな?
君たちに毒気抜かれちゃったよ。」


ココ、走り甲斐のあるいいコースだね。

そう言うと、目を細めてにこりと笑う。


しどろもどろになりそうなのを取り繕いながら、先に少し落ち着きを取り戻したらしい慎吾が

夢子は、コイツで攻めてんのか?」

と、マシンに近付きながら問う。

「そう。
高速走ったり、山岳コースは神奈川が多いかな。
峠か高速か、場所に合わせて多少このコを弄ってる。」

「凄いな。自分でチューンしてるのか?」

と、今度は毅が問うた。

「そ。好きならやるんじゃないの?
アタシはエンジンのオーバーホールも自分でするわよ?
まあ、身内が自営で整備やってる影響もあるけど。」


君たちも似たようなもんでしょ?

そう振られて、まぁ確かにと思う反面、こんな綺麗な女性がオイルにまみれるのは、偏見と言われてもやはり想像しがたい。

しかし、移動手段以上の意味を持つ愛車を自分で手入れし調整するのは、二輪四輪の違いはあれど当然必要なことだ。

'本気組'同士、親近感が湧く。


彼女は存外四輪にも明るく、話していても――こんなに魅力的な美人なのに――あまり女性を意識せずにすむ。

乗るモノが違うせいか、話も新鮮で面白い。

お互い新たな理解者を得、大きな収穫だと喜んだ。


「ナァ夢子、もう帰ンのか?
絶対また妙義に来いよ。
ちーっとばっかし遠いけどサ。」

ニッと笑って慎吾が言えば、

「妙義はガラの悪いヤツも多い。
来るなら先に連絡して来た方がいい。」

そう言って、毅は連絡先を書いて手渡す。





峠を下るテールランプを見送りながら、

―――「毅、ズイブン積極的だったじゃねーか。
マジで惚れっちまったかァ?」

「そう言う慎吾こそ、かなり気に入ったみたいだな?」


「チッ。ムカつくヤローだな。
ダウンヒルで勝負すっかァ?」

EG6に向かいながら慎吾が叫ぶ。

「フッ、望むところだ。
お前とは1度きっちり白黒つけとかないとな。」

そう言い毅も32に乗り込む―――

こんなやり取りがあったのを、夢子は知らない。





妙義山をしたたかに攻め登るZ2と、それに跨がる美人ライダーの噂が妙義一帯に広まるのは、ほんの少し先のこと。



[first contact]END.
writing."Aprilfool" mimi様
up date.2015/04/01