幼なじみに恋をして
あたしの幼なじみ、高橋 啓介は巷じゃかなりの有名人。
「でよ、協力してくれんのか?どうなんだ?」
他の人からしてみれば、とっても美味しいお願い。
―高橋 啓介の彼女のフリをしてくれないか―
でも、あたしは返事を渋ってる。
だってそれは、啓介にとってあたしが「安全圏」で「恋愛対象外」を示してるから。
あたしは啓介が好きなのに。
「ねぇ、啓介」
「ん?協力してくれんのか?」
「あたしに協力を仰ぐのは、どうして?」
聞くのは恐いけど、聞いておきたい啓介の気持ち。
「どうしてって、それは…
夢子は幼なじみだから、俺の性格わかってるし…
他の女みたいに、キャアキャア騒がないし、俺の彼女ってことを鼻にかける心配もないだろ?
それに…なにより、車と自分どっちが大事?なんてこと、言わないだろ」
あぁ…やっぱり。
認めたくはなかったけど、啓介にとってあたしは「幼なじみ」でしかないのか。
わかってはいたことだけど、やっぱりへこむ。
「なぁ、協力してくれんの?」
「そのかわり、大学まで迎えに来たり、たまには遊びに連れてってよね?」
「おぉ、もちろん!ってことは、協力してくれるってことだな?」
「うん」
啓介の顔を見てたら、知らずに了承の言葉が口から出ていた。
でも、嬉しそうに「サンキュ」なんて笑顔で言われたら
今さら言葉を取り消すことなんて出来なくて。
かなしいかな、惚れた弱味ってやつね。
そうしてあたしは、啓介の彼女を演じることになってしまった。
それから啓介が大学に迎えに来れば、次の日には友人知人問わず
いつ、あの高橋啓介の彼女になったのか、と質問の嵐。
実際には違うから、あたしは曖昧な答えしかいつも返せなくて。
気付けば、一ヶ月が過ぎていた。
そんなある日。
久しぶりに一人で街へ出かけたら偶然にも
他県の大学に行った高校時代、仲の良かった男の子に会った。
そして今、こうしてお茶してる。
「それにしても、驚きだな」
「なにが?」
「だってお前、あの高橋弟の彼女なんだろ?」
噂とは恐ろしいものだ、と改めて気付かされた気がした。
「だ、誰に聞いたの?」
「まぁ、風の噂ってやつかな?ほら、一応、俺だって一介の走り屋なわけだし」
「あぁ…そうよね…」
あたしの歯切れの悪い物言いに、友人は不思議そうな顔をした。
「あれ?あんま上手く行ってないのか?」
「上手く行ってないっていうかさぁ…」
友人が普段、他県にいるってことで、
あたしは内密にするのを条件に彼女のフリをしていることを話した。
友人は驚いていたけれど、誰にも言わないと約束してくれ、
その後は昔話に花が咲いて、あたしが帰ったのは日もどっぷり暮れてからだった。
その夜、珍しく連絡なしに啓介がやってきた。
珍しいなと思いながら、部屋に入ってきた啓介の表情を見て、
あたしは何かしたかな、と思考を巡らせた。
「 …け、啓介?なんか、あったの? 」
物凄く虫の居所が悪そう、いや、明らかに悪いであろう啓介は、
あたしの問いに答えることなくズカズカと部屋に入ってきて
ドサッとベッドに座った。
「啓…」
「
夢子、お前、今日どこにいた?」
「えっ…?」
思いもよらない啓介の言葉に、疑問の声をあげてしまった。
「どこにいたって…街にいたけど…」
「男と二人でお茶してなかったか?」
「え…うん、してたけど」
あたしは何故、啓介がそんなことを聞いてくるのか、わからなかった。
確かに啓介の彼女のフリはしているかもしれないが、
それはフリでしかない。
本物の彼女ならこうして言われるのも理解出来るが、
あたしは彼女であって彼女でないのだ。
「なんで俺がいるのに、男と二人で出かけてんだよ!」
「別に久しぶりに会った友人だから、お茶飲みながら話してただけよ。
それに、別に本当の彼女ってわけじゃないんだからいいでしょ?
何をそんなに怒ってるのよ」
「お、俺は…!」
「俺は、なによ?」
「いや、やっぱ、何でも」
「気になるから言って」
あたしは啓介の言葉を遮って、そう言った。
まさか、そんな言葉が出てくるとは思わずに。
「…俺は、
夢子が好きなんだよ!!」
うまく思考が、まわらない。
啓介が、あたしを好き…?
じゃあ、なんで彼女の「フリ」なの…?
「だ、黙ってないで、何か言えよな!」
そんなことを言われても、思考がついていかないのだから、しょうがない。
「…やっぱりな…。だから言えなかったんだよ…」
何やら勝手に自己完結している啓介に、あたしはようやく声をかけた。
「…いつ、から?」
「あ?」
「いつから、あたしのこと好きだったの?あたしもずっと啓介のこと好きだった!」
ずっと言えないと思っていた言葉は、
思いもよらない形で啓介本人に伝えることとなった。
「それ…ほんとか? 」
「嘘ついてどうすんのよ、バカ」
「バカって言うことないだろ!・・・
夢子、俺の彼女になってくれますか?」
「うん、喜んで」
啓介にとって、恋愛対象外の幼なじみだとばかり思っていたあたしは
今日、「ホンモノの」啓介の彼女になりました。
オマケ
「何で彼女のフリだったのよ?」
「普通に告白して今の関係壊れるのが、恐かったんだよ」
どうやら、あたしと啓介の思考回路は同じだったみたい。
[幼なじみに恋をして]END.
writing."
気儘屋-ネコ気分-" 深飛様
up date.2005/11/29