Midship Runabout 2personS


午前4時半は深夜か、それとも早朝か。季節や生活スタイルによって、時刻への印象は異なるかも知れない。

国道120号、いろは坂。カーブの合計は48箇所、いろは順に48文字を当てられている。
馬返へ向かう上り線〈降り坂〉の第一いろは坂に28箇所、中禅寺湖へ向かう下り線〈登り坂〉の第二いろは坂に20箇所。
登り坂と降り坂、上り線と下り線。
ただの有名観光地、という認識を持つ人との会話中、互いの思い違いに気付くこともある。


高校生の頃はバイクで、18歳になってからはMR2で。
免許を取ってから今まで、公道ではここを一番多く走ってきた。云わば地元だ。
紅葉の時季ともなれば、週末は地獄絵図と表現するに相応しい混雑を見せる。
だが、夜と朝の境界とも言えるこの時間になれば交通量はゼロに近く快適だ。

眠気で集中力が途切れそうになったカイは、あくびを噛み殺しながらブレーキペダルを蹴った。

珍しいことに、日付が変わってからは〈皇帝〉達とも会っていない。
もう一度あくびを漏らしかけた刹那。チラリと視界を掠めたのは、前方のテールランプの灯。
後方のカイを誘うように揺れ、ゆらりと闇へ溶けていく官能的な緋色。


カイは迷うことなく標的を決めた。普段より好戦的になっている自分に気付く。


それから間もなくカイが捕えたのは、しなやかに走るMR-Sだった。
標的と決めたその車、カイはすぐ後ろに張り付いてライトパッシングを始める──どうか停まって欲しいという願いを込めて。
ここは明智平より手前。もうすぐ黒髪平が見える筈だ。今引き止めなければ、次はいつ会えるか分からない。
願いが通じたのか、黒髪平駐車場へ停まった赤いMR-S。静かに運転席のドアを開けたのは女性だった。


カイは乱暴にサイドブレーキを引いてMR2から飛び降りると、真っ直ぐに彼女を見据えた。
「オレ、小柏カイです。良かったら、名前教えてくれませんか」
「……田中……夢子
躊躇うように彼女はカイを見遣り、小声で名乗った。

深夜、車通りもないこんな場所、女性が一人。
後方から散々煽られた挙句、声を掛けられたなら──恐らくこれが普通の反応だろう。
自分の行為を正当化するつもりはないが、〈走り屋〉である以上、性別も年齢もキャリアも関係ないとカイは思っている。
彼女のMR-Sは前期型。見た目はノーマルに近いが、挙動やエンジン音から本気で走っていると見て間違いない。
あえて、外観はそれと分からないようにしているのだろう。分かる奴にしか分からない種類のチューニング。

カイは彼女を真っ直ぐに見た。
田中さん──オレと、バトルしませんか?」
「イヤ」
カイの申し出は即座に拒否される。
「私、公道では安全運転だから」
「サーキットだったら、受けてくれますか?」
「…………」
「何処なら──」
「とにかく、イヤなの。ごめん」
夢子は早々と愛車へ乗り込み、カイを振り返ることなく走り去った。


「……完璧にフラれた……」
カイは溜息を零してMR-Sのテールを見送る。MR2のエンジン音だけが体に響いていた。




あれから一ヶ月経ったが、彼女──夢子──には会えないままだ。赤いMR-Sを探していることは、誰にも言っていない。
〈皇帝〉なら、何か知っているかも知れない。
すっかり落葉した木々を眺めながらそう思ったものの、夢子のことは自分だけの秘密にしておきたかった。
時間が空くと国道120号へMR2を走らせ、当ても無いのに夢子を探している。お陰ですっかり睡眠不足だ。
目元をこすりながら大教室のドアを開けた。見渡すと、友人2人は既に最後列へ着席している。
「お、小柏。久しぶりだな」
「お前がサボってるからだろ」
「よう。旧車元気か?」
「うるせえな。元気だよ」
苦笑しながら最後列の端に座ると、程無くして2限開始のチャイムが鳴った。


「遅っせーな。講義時間10分過ぎたら休講になるんだよな?」
教室の時計は10時54分。担当教授はまだ来ない。
「腹減ったー。小柏、昼何食う?」
「うーん……今朝パンだったから米かなー」
休講への期待が高まる中、突然ドアが開いた。一瞬にして、教室中がシンと静まる。
「何だよー。休講かと思わせといてギリで来るとかタチ悪いな。あと1分だってのに」
しかし入って来たのは白髪の老教授ではなく、スーツ姿の女性。学生達がざわめく中、彼女は壇上でマイクを手に軽く頭を下げた。
「教務課の田中です。教授の体調不良により、本日は休講となります。補講については各自掲示板で確認してください」
簡潔に用件だけを述べた彼女。マイクのスイッチを切ってスタンドへ戻すとまた頭を下げ、教室を後にする。
「ラッキー。つか補講かよ。めんどくせー」
「──おい、小柏!」
「悪い、また今度な」
鞄を引っ掴み、カイは教室を飛び出した。




夢子!」




大きなガラス窓から太陽が射し込む廊下。濃い灰色のスーツに身を包んだ彼女は、カイの大声に驚いたように振り向いた。
「──MR2の、」
「小柏です。覚えててくれたんですね」
「そりゃまぁ。ここの学生だったんだ。偶然だね」
田中さんこそ……職員なんですね。びっくりしましたよ。えっと、いつからですか?」
「今年の4月。私は課の中でも裏方だし、学生と直接は話さないから」
「そうなんですか」
「と言うか、私の方がびっくりしたんだけど」
「……え?」
「私の名前呼んだでしょ。苗字じゃなくて、下の名前」


1分も経たない、つい先程の出来事。それを反芻したカイは急に恥ずかしさを感じ、頬が熱くなったままで頭を下げた。


「──し、失礼しました!」
「別に気にしないから。てか顔赤いよ」
「……すみません」
「いいって。あ、お昼まだでしょ?私これから学食行くんだけど」
「オレも一緒にいいですか?」
「うん。そのつもりだった」
夢子がにこりと微笑った。

「……良かった」
「え?何が?」
「いや──オレ、田中さんにすげえ嫌われてると思ってて」
「嫌いな人ごはんに誘ったりしないよ」
「それなら、ちょっと安心しました。──あの、」
「バトルの話なら却下します」
「……すみません」
がっくりと肩を落としたカイを見遣り、夢子が柔らかく笑んだ。




「MR-S、もう長いんですか?」
「まぁねー。でもいろは坂の経験は長くないよ。時々行くくらいだし」
ガラガラの食堂、窓際の丸テーブルは特等席だ。トレイに載っている皿を指して夢子が促した。
「まだ箸つけてないから取っていいよ、小柏くん」
「オレが食いしん坊みたいじゃないですか」
「沢山食べて大きくなるんだよー」
「身長はもう伸びませんよ」
「内面だよ、器の大きさのこと。ほら、健さんみたいな」
「──おやじのこと知ってんすか!?」
思わず立ち上がった拍子に、ガタンと椅子が倒れた。
派手な音が食堂内に響き、給茶機に緑茶粉末を補充していたおばちゃんが何事かとこちらを窺っている。
カイは慌てて椅子を起こすと座り直し、素知らぬ顔で味噌汁を啜っている夢子に詰め寄る。

田中さん、」
「見学……ギャラリー、って言うのかな。その時私は何も知らなくて、友達に連れて行かれたんだけど」
「それって、最近ですか?」
「もう何年も前だから、健さんは私のこと覚えてないと思う」
すっごくカッコ良かったんだよ──夢子はうっとりと溜息を零す。
「それで健さんと話してたらね、きみにはMR-Sなんか似合うだろうな、って言われたの」
「……だから、MR-Sに?」
「そう、すぐ見付かったから即決。あんな先生なら学校楽しかっただろうなぁ」
父の職業は中学校の教師。帰ったら問い詰めよう──カイはそう心に決め、軽く咳払いをした。



「じゃあまたね、カイくん。講義サボっちゃダメだよ」
食堂を出ると夢子が手を振った。それに応えようとカイが右手を上げた途端、その手が固まる。
田中さん今、オレの名前──」
「苗字だと、カイくんも健さんも同じだもんね」
当たり前か──夢子は笑って背を向けた。その背中へ、カイが一瞬迷って投げ掛ける。

「オレも、名前で呼んでいいですかっ」
「いいよー」
背中を向けたままひらひらと右手を振って、夢子が笑った。表情は分からなかったけれど──声は確かに、笑っていた。





「ただいま」
「おかえり、カイ。晩飯まだだろ」
「あ──あのさ、おやじにちょっと聞きたいことがあるんだけど」
いつになく真剣なカイの声色に、健は採点途中の赤ペンを止めた。
「何だ」
「赤いMR-Sに乗った女の人──知ってるか?」
「…………赤い、MR-S?」
リビングの椅子に背中を預け、健はカイの問いを繰り返した。記憶の糸を手繰り寄せるように、視線が答案用紙の上を滑る。


田中──夢子さんていうんだ」
「ああ、思い出した。何年前だったかな。いろは坂で会ったことがある」
「……それだけじゃないだろ」
「どうした?怖い顔して」
「別に、何でもない」
「何でもないって顔じゃないがなァ」
健はからかうような口調で答案用紙に目を落とし、再びペンを走らせ始める。
「他に聞きたいことはないのか」
「……もういい」
自室へ向かうカイの背中を見遣り、健が思い出したように呟いた。

「あの子、朝型か夜型か分からないんだよな」
「は?何だよ、それ」
「朝の4時とか5時にピンピンしてるんだ。普通は夜通し走り回ってクタクタ、そろそろ帰るかって時間だろ?」
「でも豆腐屋みたいなのも居るんだし……」
「あれは特殊な例だ」
どこか棘を感じる健の口調に、ふと苦笑が漏れた。





きっと、教務課へ行けばまた夢子に会える。
そう思って本館の事務窓口を何度か覗いたものの、彼女を見付けることは出来なかった。
もし会えたとしても、大学構内でバトルを申し込むのも──何となく、違うような気がする。
そしてカイはまた、いろは坂で夢子を探すことになった。





平日の深夜。明智平駐車場に向かったカイは、そこに数人が居るのを確認した。
数台在る車は全てランエボ。エンペラーのメンバーに間違いないだろう。
彼等と仲違いをしているわけではないが特別親しいわけではなく、これといって話すこともない。
MR2を駐車場の入口近くに停車させ、運転席から降りるとカイは静かにドアを閉める。

明日の講義は午後から。今日はとりあえず6時くらいまで粘ってみようか──

「小柏」
不意に後ろから呼ばれてカイが振り向いた。
「須藤──さん」
「最近赤いMR-Sにご執心のようだな」
「……知ってるのか」
「まあな。それで、もう済んだのか?」
「──何が」
「決まってるだろう。バトルだ」
「……いや」
「そうか」
京一はカイの答えに、興味を失くしたとでも言うように背中を向ける。縋り付くような気持ちでカイが問い掛けた。
「どうして、そんなこと聞くんだ。知り合いなのか?」
「何度か見掛けたが、手合わせは一度だけだ」
「……彼女と、ここでバトルを?」
肯定とも否定とも取れる溜息が、京一の唇から零れた。それは薄っすらと白く上る。
振り返った京一は束の間カイを見遣り、すぐに視線を外した。

「何だよ。教えてくれ」
「俺からはこれ以上言えないな。後は本人に聞くといい」
嘲笑うように口角を上げた京一が、レザーブーツの踵を鳴らしてカイから離れた。


須藤は、オレが知らない夢子を知っている。須藤は、夢子とバトルを────


きつく唇を結ぶと、口中が砂を噛んだようにざらついた。
カイは苛立つ気持ちをどうにか抑え、MR2に飛び乗ると乱暴にドアを閉めた。
車内の静寂に耳が痛くなる。堪らずステアに突っ伏した。





オレは会いたいんだ、夢子に。夢子が、好きなんだ。
夢子がバトルを拒否するならそれでも構わない。今度会えたら理由を聞いて──きっぱりと、諦めよう。夢子のこと。



夢子と初めて会った場所は、哀しい思い出の場所になりそうだ。



黒髪平駐車場。時刻は午前4時半になろうとしている。
大きなあくびが漏れ、吐いた息が白く上った。冷え切った空気に鼻腔がツンと冷える。
「帰るかな……」
ぽつりと零れた自分の言葉、我ながらひどく頼り無く感じて苦笑した。
また明日、講義が終わったらここに来よう。夢子に会えるまで何度でも。


遠慮がちにクラクションが鳴らされてカイは我に返った。
振り向いたカイを、MR-Sのヘッドライトが照らす。一瞬目が眩み、何度か瞬きをしているうちにMR-Sのエンジン音が止んだ。


「カイくん、何してるの?」
運転席から降りた夢子が、特別驚いた様子もなく問うた。
ずっと、会いたいと思っていた。それなのに、夢子を目の前にしたカイは途惑いを隠せないで居る。
「オレとはバトルしたくないっていう、理由を聞かせてほしい」
切羽詰ったようなカイの口調に、夢子は少し怒ったような、困ったような表情を浮かべている。
夢子を責めているような気がしたが、そんなことに構っていられなかった。余裕なんて、夢子と初めて出会ったあの時から失くしてる。


「バトル自体が嫌なわけじゃないだろ?須藤と、したって……本人から、聞いたんだ」
「そう。あの人、意外とお喋りなんだね」
夢子、どうしてオレとは、」
「──もう!そんなの集中できないからに決まってるでしょッ!」
痺れを切らしたように夢子が言い捨てた。理解出来ないといった表情のカイに向けて、夢子が言葉を続ける。
「……だから!カイくんとバトルしても、私が集中できないから!」
「それは、オレがMR2に乗ってるから?」
「……間違ってないけど……」
「オレが、小柏健の息子だから?」
「……なんで健さんが、」
夢子は、オレのおやじのこと、──好きだから?」
「へ?」
呆気に取られたように、夢子は目を丸くしてぽかんと口を開けた。
「──え、ああ、健さんのことは勿論好きだけど」
「やっぱり──」
「……カイくん誤解してる。健さんが好きってのは、尊敬してるって意味で──」
「尊敬……」
「あのね、カイくんとバトルしたら集中出来ないって言うのは、その」
夢子は唇を結んで、カイが思っていたよりもはっきりと。


「私──カイくんのこと好きだから」
今度はカイが呆気に取られた。
「は……?」
混乱して、次から次へ感情が溢れ出しそうになる。



「カイくんが好きだから……追っても追われても、バトルに集中できない。そんなの相手に失礼だと思ってる。
  それに──もし私が事故なんか起こしたら、色んな人に迷惑掛けるでしょ?だから、私はカイくんとはバトルできないの」
慎重に言葉を選ぶように、夢子がゆっくりと想いを紡ぐ。
カイは自分に向けられている強い眼差しを、ただ純粋に美しいと思った。


「ごめんね。でも、誘ってくれて嬉しかった。さよなら」
カイから視線を外して俯き、やけに明るく夢子が言った。夢子の声は微かに震えていた。まるで、泣き出す直前のように。

背を向けようとした夢子の手首を掴み、思い切り引き寄せる。夢子は足をもつれさせ、自然とカイに身体を預けることになった。
きつく抱き締められた夢子はカイの黒いジャケットに触れた後、心底驚いたように息を飲んだ。
「行くな、夢子
「……カイくん?」
「さよならなんて、言うなよ。もう会えないみたいじゃないか」
「──ごめん」
「ずっと夢子に会いたかった。探してたんだ」
夢子の耳元で、少し掠れたカイの声。抑えきれない心臓の鼓動。熱を持つ頬。

「カイくん、苦し、」
「あ、悪い……」
思っていたよりも腕に力が入っていたことに気付く。
力を緩めてみたものの、そのまま夢子を離してしまうのはあまりに──惜しい。

「ごめん、夢子。もう少しだけ……こうさせて」
そっと顔を上げた夢子を、カイは再び腕の中へ閉じ込めた。






明智平駐車場。
自販機横のベンチに腰を下ろした京一が、ジャケットから煙草とオイルライターを取り出した。
開封したばかりのパッケージから一本取り出し、ライターを右手にフリント・ホイールを回転させる。
着火した炎をゆっくりと煙草に点しながら、随分前のことのように感じる「あの」出来事を思い返す。

彼女との接触はたった一度だけ。

今と同じように、空が表情を変えつつあった。時刻は午前5時頃だっただろうか。
いろは坂の〈皇帝〉からライトパッシングを受けても、全く動じないMR-S。
比較的安定した挙動を後ろから眺めているうち、京一の口元に笑みが浮かんだ。
何故か、追い抜いてやろうとは思わなかった。
前方のMR-Sは避けるわけでもなく逃げるわけでもなく、一定のペースを保ちながらステアを切っていた。
双方にバトルの意思がないのなら、それはただのドライブと変わらない。勝負でないのなら、勝敗など決められない筈だ。
ここ──明智平駐車場で顔を合わせた時、京一にはピンときた。
彼女が誰かを探していること。その相手は残念ながら、自分ではないこと。

「誰を探している」
「青の、MR2」
「目的はバトルか」
「違う。ただ会いたいだけ」
それを聞いた京一はすぐに、彼女──夢子の想いを理解した。
「俺は、お前に協力するべきか?」
京一の問いに対し、夢子は静かに首を振る。会話はそれで充分だった。




俺は結局──小柏カイと田中夢子──2人を煽ったことになるのだろうか。




ライターのリッドを閉めて静かにベンチに置き、京一は大袈裟な溜息を吐いた。
吐息は細い紫煙を揺らすと白く濃く立ち上ってすぐに消えた。






夢子が、いつか気が向いたらオレとバトルするって約束しないか」
名残惜し気に身体を離すと、カイが右手の小指を掲げた。それをしばし見つめ、夢子は苦笑するように肩をすくめる。
「すごく曖昧な約束だと思うけど。カイくんが、それでいいなら」
夢子の冷えた小指が、カイの小指にそっと絡められた。

「サンキュ」
照れるように笑ったカイは、そのまま夢子の掌を包む。
夢子がオレより先におやじに会ってるってことが、なんか悔しいけど」
「でも……健さんと会ってなかったらきっと、カイくんにも会えなかったよ」
「そうかもしれないけどさ。あと、須藤も」
「あー。あの人に張り付かれたときは結構怖かった。襲われるかと思ったもん」
「襲われ……」
真顔で考え込んでしまったカイを見遣り、夢子は自分の言葉を反芻した後こっそりと微笑った。


「オレ、須藤のこと嫌いになりそう」
ぽつりと呟いたカイに、夢子が俯いて肩を震わせた。笑いを堪えているようだ。
「何?夢子、オレなんか変なこと言った?」
「ごめん。カイくん可愛いこと言うなぁと思って」
夢子が顔を上げ、意地悪くニンマリと笑う。
「……オレが年下だからってバカにすんなよな、夢子
「してないよー」
「嘘つけ。絶対してる」
「ほら、そーいうのが可愛いんだってば」
繋いだ手に軽く力が込められ、カイの心臓が鳴った。



「……そうだ。夢子、いつもこの時間に走ってるのか?」
「うん。仕事から帰って寝て、それから走りに行くから……大体4時くらい」
「それじゃ、豆腐屋と同じか」
「お豆腐屋さん?」
「そう、走り屋で豆腐屋。秋名にハチロクで配達する豆腐屋が居るんだ。早朝豆腐積んで山上って、帰りは全開ダウンヒル」
「見てみたいなぁ。カイくん、そのお豆腐屋さんとバトルしたことあるの?」
「この間、ここで一度。見事に負けたよ」
「そっか」
「でも、あいつとは──またどこかで会える気がするんだ」
夢子が細い溜息を吐く。
「……どうかした?」
「ちょっと、いいなぁって」
「何が?」
「お豆腐屋さん、カイくんに思われてるって感じ。羨ましい」
「思うって……そういう意味じゃないけど」
「青春だねぇ」
しみじみと噛み締めるように夢子が呟いた。
困ったように頬を掻くカイを見遣り、夢子は指先でそっとカイの唇に触れた。


「今は私のことだけ思ってて」
悪戯っぽく夢子が笑う。この笑顔を離したくない──カイは切にそう思い、夢子の腰を抱き寄せた。

澄み切った空気の中、朝陽がふたりと2台を照らしている。



[Midship Runabout 2personS]END.
title.[MR2 (Midship Runabout 2seater)] & [MR-S (Midship Runabout Sportsopencar)]
theme.夢小説家に100+aのお題 no.100[好きな人]
up date.2007/11/30