BOY MEETS GIRL


GT-Rが嫌いだ。でかいエンジン、でかいボディ。
サーキットだろうが峠だろうが──速く走ったって、それはドライバーの腕じゃない。〈車〉が速いだけだ。
走り屋はマシンの性能じゃなく、自分のテクで勝負だろ。



時刻は午前3時を少し回ったところ。啓介はFDの中で欠伸を噛み殺した。
「ねみー。そろそろ帰っかな……」
真っ暗な赤城山。月は高く白い。FDはロータリーサウンドを響かせてエネルギー資料館を左手に通り過ぎる。
刹那、前方でテールランプが煌めいた。特徴ある大小の円形、GT-Rだ。
「イイ気分で流してたのに邪魔しやがって」
啓介は舌打ちしながらGT-Rに近付く。FDのライトに白く浮かぶBNR34。ナンバーは群馬──10-123。赤城では初めて見る車だった。
しかし、レッドサンズのメンバーじゃないことは確かだろう。後ろから啓介が近付いているのに、シカトするような失礼なヤツは居ない筈だ。
だとすると……他のチームか、チームに属さない一匹狼だろうか。どちらにしろ、いつまでもテールを眺めているわけにはいかない。
「どかねぇならコッチからいくぜ」
FDのアクセルを開ける。R34は動じることなくスピードを上げた。
GT-Rがストレートで速いのは当たり前。前を走るR34は、コーナーからの立ち上がり加速をマシンに頼っていない。
1.5tを超えるボディを軽々と操っている。
「フン……ちったぁ根性あるじゃねーか」
GT-Rに〈乗せられて〉いるようなら速攻で抜かしてやろう──と思っていた啓介だったが、幾分興味が湧いた。こいつのテクをもっと見てみたい。

フロントをR34のテールに擦り付けるように近付けていたが、少し間隔を空ける。
観察するつもりで後ろを走っていると、R34はハザードを点けて減速し始め──そのまま大沼へ進んでいく。砂利の上でFDが不快に跳ねる。
R34は湖畔に停車した。啓介は少し離れたところへFDを停めエンジンを切る。
途端、辺りが痛い程の静寂に包まれる。啓介がFDを降りるのと同時にR34のドアが開いた。
「……はッ、なんだ──」
「女か、って言ったらリアウィングへし折るよ」
啓介は言葉に詰まり、R34のドライバーを見つめた。
恐らく、agnes b.のコットンシャツにANNA SUIのジーンズ。見たところアクセサリーは着けていない。
セミロングの髪色は……キャラメルブラウン、といったところだろうか。味気無い外灯に照らされながらも艶やかに光っている。
彼女は真っ直ぐ啓介に視線を置いている。啓介は彼女の瞳に強い力を見た。
「名前は?」
「人に名前を訊く時はまず自分から名乗るのが筋だと思うけど」
「…………高橋啓介」
「知ってる。あたし、夢子
「……夢子。なんで34なんか乗ってんだよ」
「啓介はRが嫌いだって聞いたから」
「そんなにオレが嫌いかよ」
「──いつか、あたしに気付いてくれるかと思って」
夢子は黄色いレーシングシューズの爪先に視線を落とす。さらさらと髪が擦れる音すら聞こえそうな程の静けさ。
心なしか、夢子の頬が薄っすらと赤みを帯びている。

「……目的は達成したから、しばらく赤城に来ることもないと思う。──じゃあね」
「待てよ、夢子
踵を返した夢子の腕を啓介が捕えた。そのまましっかりと抱き寄せる。
鼓動が彼女に伝わってしまうのではないかと思う程、啓介の心臓は激しく高鳴っている。
「オレを本気にさせたんだ──覚悟、できてんだろな」
そして夢子へ優しく押し付けられた啓介の唇は、火傷しそうなくらい熱を帯びていた。



〈運命〉なんかこれっぽっちも信じちゃいないが──夢子、お前だけは特別だ。



『R嫌いの高橋啓介がR乗りのオンナと付き合っている』という噂で赤城山が賑わうのは、この日から一週間ほど後のこと。
パラレルドリフトをキメる2台を見ると恋愛運が上がる──妙なおまけを尾ヒレにつけて。



[BOY MEETS GIRL]END.
request.まい様(10123HIT)
title.布袋寅泰
up date.2004/11/06